どう考えても、いま東京にいる人が放射能の直接的な影響で吐き気をもよおすということはあり得ません。これまでは、特殊な一部の人だけが妄想を抱いたに過ぎませんが、この原発事故によって、かなりの数の人が妄想を抱くかもしれないと考えています。
やきもきしながらも、
こころを落ちつけて見守る以外に方法はない
現在進行中の原発問題は、白か黒かという図式にあてはめることはできません。好転したかと思えば、悪い情報が入ってくる。「一進一退」「三歩進んで二歩下がる」というジリジリとした状況は、いまの日本人が最も苦手とするところだと思います。
現代の日本人は、不確定な情況のなかに置かれることに脆弱になっています。やきもきするのが苦手です。もちろん、やきもきしなくて済むなら、それに越したことはありません。しかし、本来、人生には、自分の思うようにならない情況でひたすら待つしかない情況は山ほどあります。恋愛はその典型で、自分が好きになっても、相手がその気になってくれるかわからない。想いを伝えることができても「少し考えさせてほしい」と言われたら、待つしかありません。こういう情況への耐性が、いまの日本社会は脆くなっていることが、今回の原発事故で浮き彫りになりました。
震災後に、こころの不調を訴えて病院に来る方は確実に増えています。またこれまでこころの病を抱えて病院に来られていた方の症状も、震災後悪化しているケースが多いです。仕事で1年後のプランを練る必要に迫られても、そのころの原発の状態を想像することでモチベーションが下がり、思い切ったことができなくなるという人もいます。
また、放射線への恐怖について、夫婦間で危機意識が違うことから、夫を信用できなくなったと訴える方もいます。原発事故に伴うストレスから、気持ちがぎすぎすしていたり、人に対して寛容になれなかったりしているようです。これは「原発鬱」とでもいえるような状態です。症状には人によって差がありますが、多くの人が、原発事故に伴うストレスを抱えていることは間違いなさそうです。
原発事故は、放射線汚染による人体や環境への影響、さらに地域住民の生活へも多大な影響を及ぼす大きな問題です。また、今後の日本のエネルギー政策についても議論され始めています。それらと共に、原発事故に伴い日本で多くの人が甚大な心理的ストレスを抱えている点も、見逃してはいけません。