林鄭氏が圧倒的勝利、
香港行政長官選挙の波紋
3月26日、日曜日、香港で行政長官選挙が行われた。林鄭月娥(キャリー・ラム)前政務官が他2人の候補者を破って当選、初の女性行政長官となった。同選挙は選挙委員会における1200人が投票する仕組みで、一般市民に投票権はない。結果、林鄭氏は777票を獲得し、ライバルと目されていた曽俊華(ジョン・ツァン)前財務官の365票を大きく上回った。
今回の選挙に至るまでに香港社会が辿った屈折を思い起こしている。
2007年、時の胡錦濤政権は10年後の2017年に香港に普通選挙を導入することを決定した。香港の憲法に当たる《香港基本法》に最終的に普通選挙を導入する旨が記されていることからすればサプライズではなかった。
習近平政権へと移行した後の2014年8月31日、北京の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が、同選挙方案を発表した。業界団体などから選出された1200人から成る指名委員会が2~3人の候補者を選出し、そこに対して18歳以上の香港市民約500万人が1人1票に基づいて投票するという枠組みであった。
いわゆる“反中・反共”的な人物を事実上排除しようとする仕組みに対して、香港の民主派たちは「そんなのは偽りの民主主義だ」と反発。同日夜、全人代の下した決定に反発する民主派リーダーらは行政長官官邸前の公園でデモを行い、これに3000人が参加した。翌日の9月1日、全人代常務委員会の李飛副秘書長が香港で説明会を開いたが、ここでも民主派議員約20人が北京の決定に対する抗議活動を行っている。
その後、香港で真の民主主義を実現することを訴え、北京にある中央政府の香港政治への干渉や介入に反対する市民たちが、学生ら若者を含め“雨傘革命”と称された抗議活動を展開していくことになるのは、記憶に新しいだろう。
2015年6月、北京サイドが“提案”した同法案は香港立法会(議会)によって否決され、“普通選挙”の導入は少なくとも5年以上先送りされることになった。今回の選挙が1200人の選挙委員による“投票”という旧来の枠組みで実施された所以である。
選挙キャンペーンを通じて、北京サイドは林鄭氏を支持した。この政治的スタンスは1200人の選挙委員の“投票心理”に必然的に影響する。林鄭氏は北京の意向や立場に“忠実”な姿勢を貫いてきた梁振英現行政長官の右腕的な存在である。“雨傘革命”では学生たちに断固とした立場で立ち向かい、北京サイドの意向を忠実に履行した。民主派や学生たちの思いや求めに理解を示した曽氏とは対照的であった。