人のレベルを上げていく

青木 私も自動車販売の現場を見てきましたが、トヨタの伝説のディーラーが教える絶対に目標達成するリーダーの仕事』にも書かれていたあれはすごいですね。車を直接乗っていって、お客様に試乗してもらうというセールス。

須賀 「出前試乗」のことですね。あれも考え方を変えた結果、生まれた方法なんです。

昔は、歩けばいい時代でした。昔は、見込み客を見つける仕事でしたから。それくらい、車のニーズがあったわけです。

最初の出勤日。出社すると、「カタログ入れて、クルマを売ってきて! 君のエリアは、○○だから」と突然言われました。やり方もわからないままに……(笑)。

どうやって売ればいいのかがわからないまま、家を訪問し、名刺を渡して……。要は、買う人を見つければいいんだ、と理解しましたね。

バブルがはじけてから、そんな方法ではまったく売れない。お金がなくても、モノが売れる時代が終わり、訪問しても売れない。「障子」が「鉄の扉」に変わりました(笑)。

だから、現在では当たり前ですが、「来店型」になったんです。来店型の1号店の店長を私が担当しました。

青木 私はその頃、教育関連のモノを売っていて、同じく売れなくて困った経験があります。

須賀 そんな背景があるにもかかわらず、「来店型」を「待ち」の商売と間違える人が多いんです。「訪問型」が攻めの商売の反対だと。メーカーが宣伝して、新聞にチラシをいれて、あとは待ってる。これがそもそもの間違い。集客の活動をして、お客様を集めることが私たちの仕事。手書きの案内状をつくったり、アピール文を書いたりして、投函していましたね。来ていただいたお客様にどのようなおもてなしをするか、集客するための活動は訪問型より大変でしたね。

青木 訪問型だと、自分さえ頑張ればいいですからね。

須賀 来てがっかりさせるのではなく、来て満足を与えるために、リーダーとして何ができるかを一生懸命考えていました。洗車機の導入や、サービス工場を外から見えるようにし、来店でしか味わえないサービスもつくりました。キッズコーナーはその先駆けですね。

青木 いちばんはお客様とのコミュニケーションですからね。

須賀 1回来店してもらえれば、店長やマネジャー、エンジニアもいるし、ご満足していただける確率は、訪問型より高いです。

青木 最初はそれでよくても、どこも同じようなサービスを始めたら、「どこで差別化するのか?」と言われたら、とどのつまりは、やはり営業マン

お客様を奉ってもしょうがない。お客様を家族の一員として考えて接するくらいがちょうどいい。

須賀 提案するのは心ある人間、お客様も心ある人間。うわっつらの提案をしてもしょうがないですしね。

青木 最終的には、そこが勝負。ある程度、便利なツールができても、人間慣れてきますし……。

須賀 同じツールを使っていても、AさんとBさんでは結果が変わってきますよね。

コミュニケーション能力を高めろと言われても部下はわからない。ですから、とにかく話を続けようと。繰り返しになりますが、やはり最低でも5分。それが身につけば、展開はラクになるよ、と。

青木 コミュニケーションをとり、共感し、そして質問する力が求められる時代。さらに、第一印象ですよね。

須賀 昔、トイレを借りに来たお客様がいたんです。結果、お客様になったわけですが、車を買われて帰ったんです。いやな顔をせず、「どうぞどうぞ」とトイレの場所を案内。ペットを連れてこられていたので、その間、犬をあやし、おしぼりをわたしたところ、お客様が感動しちゃって、それで買っていただいた。ウソのようですが、本当の話なんです。

青木 私の知るところでは、あるカー用品店に名物の駐車係がいまして、ニコニコして車を誘導するのですが、お客様がそれを見て、いっぱい買っていくんですよ。

須賀 やはり、「人」ですね。人のレベルを上げていくことが大事。

青木 それに、「感謝の声」。「ありがとう」といわれるとますますがんばろうとなります。そういわれると、どんな人でも変わります。

須賀 さきほども紹介した先輩に、「売るのに言葉はいらない」と言われましたが、今ではよくわかります。

青木 最終的にそこに自ら気付いてもらうことですね。それがわかれば、自然に質問している自分がいます。

須賀 「質問していいんだよ」というのは、教えとしてとても大きいです。質問することで、コミュニケーションがとれて、人間関係ができていく。セールスマンのときなんか、質問はタブーに近かったように思います。そのときに、青木さんの本を読んでいたら、3倍は売れていましたね(笑)。

来店型の営業で絶対にやってはいけないこと

(書き手=編集部・武井康一郎)