どのようにして部下を育てたのか?

須賀正則(すが・まさのり)
1958年生まれ。東京都出身。77年、トヨタ自動車直営販売店のトヨタ東京カローラ株式会社に入社。たちまち、新人賞を獲得。やるからには常にトップを目指すという信念から、トヨタ自動車年間優秀セールスマン賞を3年連続受賞。営業マンの憧れである累計販売台数1000台のトヨタ自動車特別表彰を受賞し、金バッチセールスマンとなる。その後、年間優秀マネージャー賞3回受賞、年間優秀店長賞6回受賞など、多大な成績を残す。98年、39歳にして新車店長に抜擢。その後、武蔵野東八店店長を任される。200メートル圏内に7店舗がひしめきあうエリアを任されるなか、トヨタ販売店史上いまだ破られたことのない、オープン初月から48ヵ月連続で新車販売目標を達成する。雑誌「プレジデント」ほか、さまざまな媒体のトヨタ特集などでトヨタの現場リーダーとして紹介される。そして、営業部長、本部部長を歴任し、後進店長、管理職の指導、育成に携わる。2017年4月から、株式会社学究社専務執行役に就任。著書に、『トヨタの伝説のディーラーが教える絶対に目標達成するリーダーの仕事』(ダイヤモンド社)がある。

須賀 セールスマン生活16年間を経てマネジャーに昇格したとき、今思うと、非常に厳しい店舗への異動がありました。その店舗は全部で3課あって、1課と3課は成績優秀。2課は厳しかったですね。売る・売らない以前の問題で、後ろ向きな集団でした。朝礼であいさつしても、こっちを見ていませんでしたから(笑)。「これは相当厳しいぞ」と覚悟しましたが、私が最初にしたことは、「現場に一緒に行く」ことでしたね。

青木 現場を見ると、悪いところがよくわかりますよね。私も現場をまず見に行きます。どんなふうにやっているのか、と。

須賀 同行してみると、「このやり方は厳しいな」と思うことはありますが、それは表に出さずに、個々人を否定しないようにしていました。「ここはこうしたほうがいい」と言いたくもなるのですが、それは絶対我慢しなければいけません。そして、認めてあげることですね。

いいところを伸ばして、悪いところを変える。そして、人間関係が構築できたら、アドバイスをしていく。やがて、人間関係がしっかりできると、素直に聞いてくれる。部下も上司のことをどんな人間なのかをよく見ています。だいたい上司が部下の育成で失敗するのは、「否定」ですよね。悪いところが目につくんですが、その改善が失敗のもとなんです。

青木 なるほど。「上司が言うことだから」と、必ずしも部下が聞くわけでもないですしね。

須賀 お客様と営業マン、部下と上司、どちらも同じ関係です。心が通じ合って、お互い理解しあって、前に進んでいく。何を指導するにしても、打ち解けないことには始まりません。

青木 営業の見本を見せることはするんですか?

須賀 見本を見せると、「これをやれ」になってしまうので、あくまでも「聞く」に徹します。のちのち、見せることはありますけど。

青木 その方法だと、およそ何ヵ月で育つものですか?

須賀 さきほど紹介した2課は、徐々によくなってきて手ごたえを感じたのは、半年後でした。3年半、2課のマネジャーを務めましたが、私が異動を迎えたとき、いちばんよくなった課でした。共感してくれたスタッフが力を発揮してくれたからです。

青木 それを引き出したのは、須賀さんですよね。

須賀 「引き出した」というよりは、「理解をしてやってくれた」わけです。彼らはただ、力を出し切っていないだけなんですよ。なぜ、力を発揮できていないのか。それはこれまで否定されてきたから。「これはダメだ」「こうやればいいんだ」と言われてきたから、後ろ向きになってしまったんです。人材を表すのに、「2:6:2」の話がよく例えとして出てきますが、「6割と下位2割の人がいかに力を発揮してくれるか」ですね。

青木 「誰でもできる」が大事で、私もみんながトップセールスになるよう、指導しています。今までできていなかった人が活躍し始めると、チームが活気づきますからね。

須賀 ほんの少しのきっかけで変わるんです。上に立つ者がそれに気づけるかですね。

青木 トヨタ販売店の研修でもガラっと変わった。もともとは説明・説得型のタイプが、質問型営業を身につけてお客様に普通に質問できるようになる。

須賀 質問型営業はすごいですよ。みんな、「質問してはいけない」と思っているんです。お客様に失礼なんじゃないかと。お客様のことを知りたいけど、こんなことを聞いたら怒られるんじゃないか、嫌われるんじゃないか、と考えてしまう。「お客様のためになるんだよ」という自覚をもって、質問する勇気をもつことが第一歩ですね。

青木 先ほどのトヨタ販売店では全部で8店舗の研修をしました。「来店者の滞在時間を長くし、質問を通して会話をふくらませて、車の提案をしたいとの意向でした。

来店型って、はたから見ると簡単そうで、来たお客様とすぐ商品の話をしてしまうんですよね。「カタログが欲しい」とお客様に言われたら、すぐ渡しちゃう。そこで、私は「すぐ渡さないで」と言いました。

カタログを渡さずに話をしていると、お客様の知りたいことがわかる。話が終わるころ、「カタログは?」と聞くと、たいていのお客様は「もういいです」と言います。ちゃんと話を聞いてあげればいいんです。