心臓病は、腸内フローラと遺伝子の共犯?
おそらくあなたは、牛肉や羊肉などの赤い肉や卵は心臓血管系に悪いという話を聞いたことがあるだろう。でも、おそらく、以前から聞かされてきたこととは異なり、心臓疾患のリスクを高めるのは、それらに含まれている飽和脂肪とコレステロールだけではないということはご存じないに違いない。リスクは、そういった食物に豊富に含まれている「カルニチン」という化合物によって高められている可能性があるのだ。カルニチンは、それだけでは、まったく有害な物質には見えないが、大部分の人の腸の微生物叢を構成する細菌に出会うと「トリメチルアミン-N-オキシド」(TMAO)と呼ばれる新たな化合物に変化し、それが血流に入ると、心臓に悪影響をおよぼすと考えられている。
今までのところ、ヒトの微生物叢を構成する微生物が健康に与える影響に対する人々の関心は、ヒトゲノムに対するものよりずっと低い。しかしこの状況は変わるだろう。なぜなら、微生物叢は、あなたが口にするものや受け継いだ遺伝子と同じぐらい重要であることが、ますます明らかになりつつあるからだ。同一のゲノムを受け継いでいる一卵性双生児でさえ、同じ微生物叢を宿しているとは限らない。とりわけ体重が異なる場合、それは顕著だ。
だからこそ、自分が遺伝的に受け継いだものの世話係になる重要性を学んでいくにつれ、微生物叢の健康にも関心を払ったほうが賢明なのは自明の理だろう。これを実践する簡単な方法のひとつは、石鹸、シャンプー、果ては歯磨き粉にまであふれている抗菌製品の無差別使用に代わる手段について考えることだ。また、抗生剤の使用がほんとうに必要なのかどうか、処方してもらう前に医師に相談することも分別のある行動になるだろう。今日まで再三再四経験してきたように、武力による政権交代や、薬による微生物叢の変化は、往々にして予期せぬ長期的結果を招くからだ。
ひとりひとり違うからこそ、
口にするものを考えよう
ぼくらは、ことゲノムについては、ひとりひとりみな違う。また、エピゲノム、さらには微生物叢の観点からも、それぞれ唯一無二の存在だ。食べ物を自分にとって最適なものにするということは、栄養の偏りを防ぐということとは違う。今では、自分にもっとも適した食物に関するヒントを得るために、自分の遺伝子と代謝を調べることができるし、そうすべきだ。そうして見つかった結果は、自分が口にすべきもの、そして口にすべきではないものを知るうえで重要な意味を持つだろう。