中東情勢というと、最近は民主化運動ばかりがクローズアップされがちだが、もうひとつの大きな歴史的問題を忘れてはならない。膠着状態に陥っている中東和平交渉である。オバマ政権は5月、イスラエルに対して、第3次中東戦争(1967年)以前の境界線を前提とした交渉再開を要求したが、イスラエル側が拒絶、強い絆で結ばれた両国間に珍しく深刻な軋みが生じた。イスラエルのバラック政権下(1999年7月~2001年5月)で政策アドバイザーを務め、和平交渉の実務に携わった経験を持つニュー・アメリカ財団シニアフェローのダニエル・レヴィ氏とともに、岐路に立つオバマ中東外交の優先順位をひも解いていこう。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

――チュニジア、エジプトで政権崩壊をもたらした民主化運動はその後、リビア、バーレーン、シリア、イエメンなど中東・北アフリカ各国に広がった。
6月には反体制派の攻撃で負傷したイエメンの大統領が隣国のサウジアラビアに緊急搬送され、同国の政権は崩壊寸前にある。またテロ問題関連では5月に同時多発テロの首謀者とされるビン・ラディン容疑者が米軍に殺害され、7月には米軍のアフガニスタン撤退が始まる。このように中東情勢が大きく揺れ動く中で、アメリカの中東政策はどのように再構築されようとしているのか。

ダニエル・レヴィ(Daniel Levy)
アメリカの政治シンクタンク、ニュー・アメリカ財団のシニアリサーチフェローおよび中東タスクフォースの共同ディレクター。1999年から2001年まで、イスラエルのバラック政権下で首相室のアドバイザーを務め、その後は同国法務大臣の上級政策アドバイザーとなった。その間に関わったのは、和平協議、人権問題、パレスチナ問題など多岐にわたる。ケンブリッジのキングズ・カレッジで政治学修士号を取得。欧米、中東のメディアでコメンテーターを務めることも多い。

 アメリカは、中東の地域や国によって異なる複数の政策のパズルを調整しながら、その結果として、それらを覆う大きなポリシーを描くという困難なアプローチを迫られている。

 まず、その中心にあるイスラエルとの関係について言えば、従来の親イスラエル政策の中で語られてきたイスラエルという国のイメージは、現実とますます乖離していることを押さえておく必要があるだろう。

 これまでのイスラエルは、ひとつにまとまった西洋志向の世俗的な国と思われてきたが、実際はまるで部族化した中東国のように細分化が進んでいる。伝統的なユダヤ教信奉者、ロシア系ユダヤ人、パレスチナ系人口がどんどん増え、世俗派も増えて、それぞれに政治的勢力を成している。これに加えて、イスラエル軍に若い将校も多くなった。こうした状況から明らかなのは、和平プロセス推進には、従来以上に多くの障害が待ちかまえているということだ。

――中東民主化の流れを和平交渉再開の好機と見たのか、オバマ政権は5月、イスラエルに対して、第3次中東戦争(1967年)以前の境界線を基本する交渉再開を求めたが、イスラエルのネタニヤフ首相に拒否された。しかしその後、オバマ政権に要求を強く繰り返す様子はない。結局、腫れものに触るといった感じを受けるが……。