過去の経験から何を学べるか
以上をまとめれば、つぎのようになる。
(1)世界経済危機は需要の急減という需要ショックであったため、総需要の追加が必要だった。ところが、東日本大震災は供給側で生じたショックであるため、総需要を抑制する必要がある。このように、向きが正反対の政策が必要とされていることに注意が必要である。
(2)阪神大震災は供給側のショックではあったものの、被災地域が限定的であったため、日本全体としての供給制約は生じなかった。このため、復興投資が「巨大なケインズ政策」になり、経済を拡大させた。しかし、今回は供給制約が厳しいため、復興投資は有効需要とはならず、クラウディングアウトを引き起こす。
(3)石油ショックは、資源の使用に強い制約がかかったという意味で、東日本大震災と同じ供給ショックであった。このときの経済政策は総需要抑制策と金融引き締め、そして円高容認であり、正しい方向のものであったと評価できる。われわれはいま、このときの経験を手本とすべきである。
(4)戦災によって生産設備が破壊されたことも、供給ショックである。このときの復興投資は日銀引受の公共債(復興金融金庫債)によってファイナンスされたため、激しいインフレーションを引き起こした。この経験は、反面教師とすべきものだ。
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