食事をしながら脳を休める
医師(日・米医師免許)/医学博士(PhD/MD)。イェール大学医学部精神神経科卒業。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。現在、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。趣味はトライアスロン。著書に『世界のエリートがやっている最高の休息法』『脳疲労が消える 最高の休息法[CDブック]』(ダイヤモンド社)がある。
ムーブメント瞑想に似た方法として、食事瞑想もご紹介しておきましょう。
……と、その前に、こんなたとえ話をご存じでしょうか?
ある日、旅人の男が恐ろしいトラに遭遇した。逃げるうちに、崖の上に追い詰められてしまい、やむなく男は垂れ下がったツタを頼りに、崖を降りはじめる。しかし、なんと崖の下にも別のトラが迫っているではないか! 追い討ちをかけるように、ネズミがやってきてツタを嚙み切りはじめた。
「(もはや一巻の終わりか……)」と天を仰ぐと、崖の斜面に生えた真っ赤な野イチゴの実が目に飛び込んでくる。必死でイチゴを摘みとってほおばると、これまでの人生で食べたどんなイチゴよりも甘美な味わいがしたという─。
いかがでしょうか? 「絶体絶命の状況にあったからこそ、食べ物を“いまここ”で味わうことができた」─そんなふうにも読めるお話ではないかと思います。
食事というあまりにもあたり前の行為をしているとき、私たちは“いまここ”を忘れがちです。しかし、山のなかでトラに追い詰められるまでしなくても、自動操縦モードを脱することは可能です。そのスキルが食事瞑想というわけですが、なかでもよく使われるのがレーズンエクササイズです。1粒のレーズン(もちろんレーズンでなくてもけっこうです)を意識の錨として利用する方法です。
まず、レーズンをよく観察しましょう。はじめてレーズンを目にした子どものように、手のひらに乗せて、じーっとよく見てみる。どんな色をしているか? どんな形をしているか? 重さは感じるか? 表面にしわが入っているか? 指で押したときの感触は? どんな匂いがする? 指先で叩いたときの音は? 唇にあててみた感触は?
どんな些細なことでもいいので、とにかく細かいところまで注意を向けていきます。視覚だけでなく、触覚、味覚、嗅覚、聴覚すべての五感を使うようにしましょう。
次にレーズンを口のなかに入れます。すぐには噛まないようにし、アメ玉のように舐めてみましょう。レーズンはいまどの位置にあるか? 口のなかに触れるとどんな感じがするか? 風味は感じるか?
最後に、レーズンをゆっくり噛みます。レーズンの味がよりはっきりわかるようになるはずです。どんな味がするか? 唾液が出てきて、口のなかがどう変化したか? 飲み込んだあと、喉や食道を通っていく感じは?
食事瞑想のいいところは、集団で一緒にできる点です。
マインドフルネスは子どもの脳にも好ましい影響を与えますが、小さな子どもの場合、呼吸に注意を向けさせるのにはけっこう苦労します。
食べ物に注意を向ける食事瞑想であれば、比較的やりやすいと思いますので、ぜひご家庭で実践してみてください。