こうした措置を取る目的のひとつは、保険料を払ってもらうために加入者との話し合いの機会をもつためだという。2009年度の国民健康保険の収納率は88.01%で、長引く不況で年々下がっており、その一因に「お金があるのに払わない」という悪質なケースがあるのは事実だ。しかし、保険料を滞納している人の多くは「払いたくても、お金がないから払えない」というもので、背景に失業や貧困があることは見逃せない。

 そもそも、お金がないから保険料を滞納しているわけなので、そうした人が病院や診療所で医療費の全額を支払うことは、まずもって無理な話だ。そのため、資格証明書が交付されている人の多くは、病気やケガをしても医療機関を受診できず、実質的には無保険状態になっている。

 2010年度は、保険料を滞納している436.4万世帯のうち、30.7万世帯に資格証明書が交付されている。こうした世帯の人の中には、からだの不調を自覚しながらも病院や診療所にかかれずに死亡するケースもあるという。以下は、今年3月に全日本民主医療機関連合会(民医連)が報告した手遅れ事例だ。

●資格証明書の自営業
自営業のAさん(当時44歳・男性・北海道)は、半年前から腹痛・体重減少を自覚し、1カ月前からは呼吸困難・嘔吐などを繰り返していた。しかし、収入が不安定で健康保険料も払っていなかったため、もっていたのは資格証明書。仕事を休むと収入もなくなるため医療機関を受診できずにいた。しかし、我慢ができなくなり、無料で診察を行っている病院を紹介されて2010年5月7日に受診。ここで進行した胃がんのほか、リンパ節などへの転移が見つかった。即日、入院をしたが、6月3日に死亡した。

●無保険の元会社員
Bさん(当時42歳・男性・山形県)は、2009年12月に体調を崩し、会社を無断欠勤したことを理由に解雇される。その後、健康保険の加入手続きはとらず、無保険に。自分の車で寝泊りしながら転々としていたが、最後の1カ月間は水分のみを摂取。2010年9月1日に警察に保護され、同日に入院。歩行困難、意識のムラが認められ、9月7日に急性心不全で死亡した。

 手遅れ事例は、このような資格証明書や無保険によるものだけではない。国民健康保険や協会けんぽに加入して保険料を払っていたにもかかわらず、病院や診療所での自己負担分が支払えないために受診を控え、死亡に至ったケースもあるという。こうした手遅れ事例は、民医連が把握しているだけでも、昨年1年間で71件もある。しかし、事務局次長の湯浅健夫氏は「この71件は氷山の一角。失業や貧困などを理由に医療にかかれずに亡くなったケースは、まだまだあるはず」だという。