「マネジメントの値打ちは、医療と同じように、科学性によってではなく患者の回復によって判断しなければならない」(ドラッカー名著集(11)『企業とは何か』)
マネジメントとは変化する世の中にあって、大勢の人間が共通の使命の下に成果を上げるための方法である。確かに、サイエンスの部分はある。しかし決め手は成果であり、うまくいくかいかないかである。人を生き生きと働かせ、世のため人のために、優れた財・サービスを、豊富かつ安価に提供し続けられるかである。
いかに立派なビジネスモデルを構築し、高度の数式モデルを駆使し、豊富なデータを収集しようとも、経営の役に立たなければ無益である。
それだけではない。たとえ今うまくいったとしても、あるいは今までずっとうまくいっていたとしても、経営環境の変化を織り込めずに不適切なものとなることがある。上げるべき成果を上げられなくなりそうになれば、ただちに打開策を講じなければならない。
ドラッカーは今から68年前の1943年、世界最大最強の自動車メーカーだったGMを調査して、その報告書ともいうべき名著『企業とは何か』を書いた。GMの経営を高く評価しつつも、20年もの長きにわたって成功してきたからこそ、見直すべきであると強く示唆した。
そのために、終始調査に協力的だった同社幹部たちからは不興を買った。当時のGMは、事業部制を中心に練りに練った自らの組織体制に自信満々で、マネジメントという名のサイエンスでは先端にあると自負していたからだった。
ところがドラッカーは、経営というものは人の手になるものであるがゆえに、唯一絶対たることはありえない、と見直しの必要性を説いた。ドラッカーの宇宙観の根本は、絶対にして不動のものはなく、かつ万物は変化して少しの間もとどまらないというものである。だからこそ、見直せ、見直せと口を酸っぱくして言うのである。
「私は、唯一無二の答えというものは信じない。いかなる答えにも間違いの惧れがある。しかも、経営政策を含め人間社会にかかわる事柄において重要なことは、正しいか間違いかではない。うまくいくかいかないかである」(『企業とは何か』)