日本郵政が全国71ヵ所で営業中の「かんぽの宿」の売却準備に入った。3月中旬から、日本郵政の委託を受けたデューデリジェンス(資産査定)部隊が、全国の施設状況を調べ回っている。

 調査部隊は2人1組で、実際にかんぽの宿に宿泊し、サービス内容や運営実態についてヒアリング。周辺の競合施設や観光スポットまで訪れているという。それが終わると、今度は別の調査部隊がやって来て、土地、建物の現況、たとえば耐震性や設備詳細まで確認する念の入れようだ。

 かんぽの宿とは、簡易保険の加入者福祉施設。郵便貯金の周知宣伝施設「メルパルク」(旧・郵便貯金会館。現在11施設が営業中)と並ぶ郵政グループのホテルである。本省幹部から地方の郵便局長、さらには労働組合幹部まで、郵政関係者の天下り先確保のために、大量の資金が簡保、郵貯から投じられてきた。

 郵政民営化に当たって、かんぽの宿もメルパルクも、日本郵政の宿泊事業として集約され、民営化から5年以内に売却または廃止することが決まっている。まだ公表はされていないが、日本郵政はひそかに資産売却のアドバイザリー契約を結び、4月にも競争入札を実施する構えだ。

 ただし、売却は難航するか、あるいは買いたたかれるのは必至である。かんぽの宿は全国に散在し、老朽化した施設が多い。しかも日本郵政は全施設の一括売却と、全従業員――もちろん天下りOBを含む――の引き受けを希望している。こんな条件をのめる企業は多くはない。

 加えて、今回売りに出されるのは、あくまでかんぽの宿のみ。同じ簡保が運営していた都心のシティホテル「ゆうぽうと」も、都市部の一等地で営業中のメルパルクも今回の一括入札には含まれていない。「ポンコツだけ売って、含み益のある物件は温存するのではないか」との疑念を関係者が抱くのも当然だろう。

 仮に売れたとしても、巨額の売却損計上は避けられまい。ちなみに、郵貯関連のホテルでは、250億円を投じたメルパール伊勢志摩がたった4億円、同じく210億円を投じたメルモンテ日光霧降は7億円でしか売れなかった。これらの売却損は、本来なら郵貯利用者が受け取るはずだった逸失利益でもある。

 一方で先日、日本郵政は民営化に伴って株式公開買い付けで郵便物輸送会社「日本郵便逓送」を子会社化した。同社のもともとの筆頭株主は郵政職員の共済組合で、これまた郵政OBの天下り先ともなっている日本郵政共済組合。今回の株式売却によって約100億円もの利益を得た。

 言い換えれば、簡保・郵貯利用者が本来得られたはずの逸失利益が顕在化する一方で、天下り先団体、ひいては郵政職員には巨額の利益が還元されているわけだ。

 国民からの絶大なる信頼を得て資産を肥大化させてきた簡保・郵貯の実情は、かくのごとしである。郵政民営化の一環で「ファミリー企業」と呼ばれる天下り先団体の改革に着手はしたが、その道のりは遠い。より徹底的な見直しがなされてしかるべきだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)