ドラッカーが凄いって
本当に思うようになったのは、実は最近です。

――ところで、加藤君は、いつ頃ドラッカーの『マネジメント』を読んだ?

加藤 実は、発売されて売れ出してからなんです(笑)。もちろん「もしドラ」の編集段階では原文とつきあわせてチェックするので断片的には読んでいました。でも、ちゃんと通して読んだのはじつは発刊後です。岩崎さんの取材に同行して岩崎さんの話を伺っていたら、『マネジメント』の内容って凄いんだなって実感したのも大きいですね。

 『マネジメント』の「まえがき」にこう書かれているんです。「成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである」(.ⅶ)。ドラッカーは、全体主義と戦った人です。その彼が全体主義の対抗手段として、マネジメントの重要性を説いているわけです。

――確かに! マネジメントって「管理」と訳されたりするから、もしかすると全体主義を支えるに近いような印象さえあるかもしれない。

加藤 そうなんです。僕もマネジメントって組織が個人をしばるものというイメージがありました。でもそうじゃなくて、組織は個人個人の強みを生かして、弱みを中和することで、1+1が2じゃなく、3でも4でも10にでもなる。そういう組織をつくる仕組みがマネジメントだとドラッカーは言います。そういうマルチプルに人の可能性を大きくできる組織であれば、全体主義に勝つことができるという発想なんですね。

 実際に全体主義の考えは、足し算でしょう。しかも無理に命令するから、個々人のインセンティブが確保できなくて1+1が2にさえならない。だから自由主義経済は、全体主義とか社会主義に勝ってきたわけですよね。マネジメントは、そのためのツールなんだという話です。

――インターネット社会は確実にマルチプルの世界になっている。

加藤 そうです。この『マネジメント』流れの先に『ネクスト・ソサエティ』という本があるわけです。そこではインターネットがいまほど社会に根づく前(2002年)に、現在のネット社会を予見しています。

 ドラッカーは、『経営者の条件』などの個人の働き方についての本、『マネジメント』のような組織の本、そして『ネクスト・ソサエティ』のような社会の未来像を提唱している本の3種類を書いています。そうそう、近頃やっとドラッカーって凄いなって、わかってきました(笑)。

 ただドラッカーの『マネジメント』は、真剣にマネジメントをやったことがない人には、ぴんとこないかもしれません。本質的なことばっかり書いてありますから。『もしドラ』の特徴は、ケーススタディであることです。みなみちゃんが読者の代わりに『マネジメント』を読んで、本の中の現実に当てはめてくれるんです。たぶん僕は学生時代に『マネジメント』を読んでも、「真摯さとは何か」という部分は読み飛ばして気がつかなかったと思います。だって言ってみれば当たり前のことじゃないですか、「真摯さ」なんて。でもそれがいかに貴重なものかは働くようになるとわかってくる。