理想の本作りは、「面白くて役に立つ本」
今回それが、少し実現できたかもしないです。

―― これだけブームになった「もしドラ」の誕生に携わって、いま思うことは?

加藤 いろんなことありますね。まず、エンターテインメントの力は強いってことを実感しました。当たり前ですが、楽しいものはコンテンツとして強い。
それとこれも後付ですけど、ヒット商品は、必ず時代の流れに沿っているということ。いま日本で一番足りないものは、政治も企業もマネジメントだと思います。それは過去20年、日本のあらゆるところでマネジメントの需給ギャップがあった。「もしドラ」はそれを埋めたのでしょう。しかも、それをエンタメで表現できたこと。そして突出したデザインと、セグメントに分けたしつこいマーケティング活動。それともうひとつ大事なことですが、運がよかった。

――運がよかったとは?

加藤 先ほどマーケティングの話をしましたが、それはこちらがコントロールできるものばかりではないですよね。でもいろんなタイミングで各種メディアが取り上げてくれました。これはやっぱり運が大きいと思いますね。

――社会を動かしたという手ごたえは?

加藤 そこまではないです。でも関ったひとりとして、「もしドラ」を読んで職場や学校で使っています、という声を聞くと素直に嬉しいですね。

 岩崎さんもそうなんですが、ぼくは根性系の組織論がすごく嫌いなんですよ。というかそもそも組織自体が好きじゃなかった。組織というと、どうしても根性とか調和とか馴れ合いとか、精神論で語られるし運営されがちじゃないですか。要するによくいる学校とかになじまない子だったわけです(笑)

 でも、ドラッカーのマネジメントは、もっと個人の特性を生かした民主的な、分権的なやり方を提案しているわけですよね。というか、そのほうが成果が出ると。こういう話を「もしドラ」というエンターテイメントを通じて、方法論として提示できたというのはよかったなあと思っています。実際に社会にどれだけインパクトを与えたかまではわかりませんけど。

――でも、書籍編集者の醍醐味を味わったのでは?

加藤 得がたい多くの経験をさせてもらったことは間違いないですね。ぼくが理想としているのは「面白くて役に立つ」本です。面白いだけでもなく、役立つだけでもない。その両方を高い次元で昇華させた本をつくりたいとずっと思っています。この本では、そういうことが少しは実現できたかなと思っています。

――では最後に、一連の「もしドラ」体験を総括すると?

加藤 まず著者の岩崎さんに感謝しています。岩崎さんのおかげでこういうすばらしい経験をさせてもらいましたから。

 それとやっぱり組織の力は凄いと実感しました。プロジェクトチームではたくさんのアイデアを出し合って実行してきたわけです。たとえば今回、野球の好きな芸能人の方や経済界の人などいろんな人に献本をしたんですが、「こんな人がいる」「あんな人がいる」と、いろんな情報が集まるんです。野球だけではなく、サッカーのW杯のときには、日本代表チームの南アフリカの宿舎にまで「もしドラ」を送りました。それが後に岩崎さんと岡田監督の対談につながりました。最後は社員みんなが応援してくれて、これだけの盛り上がりにつながりました。ドラッカーという会社の資産を、新しい本につなげることができたのは、全社員の英知を結集できたからだと思います。

*組織が苦手だったという編集者が、最後は組織の力で締めくくる。これぞ「もしドラ」効果ですね。でもやりとげた仕事はあっぱれ。自社での話ですが、ここまで考えて実行していたとは知りませんでした。次回は『災害時 絶対に知っておくべき「お金」と「保険」の知識』についての裏話をご紹介します。