大林さんにお話をうかがって、もっとも驚いたのがその管理の「緻密さ」です。

大林 「たとえば、その月の売上予測が1000万円で、原価率を30%以内に抑えようとするならば、その月に使える仕入金額は300万円以下になります。その額を、平日と週末の客数の違いをだいたい勘案しながら日割すれば、1日に使える仕入金額は決まります。そうやって日々使える金額を意識しながら、毎日の発注をしていけば、月末の数字は予測とだいたい合ってくるんです」

 大事なことは「日々原価を追っていくこと」だと大林さんは言います。

大林 「グローバルダイニングにいたときには、毎月20日に店の振り返りの会議を行なっていたのですが、月末に原価がかかりすぎていることがわかっても遅いんです。日々原価を出しつつ、5日ごとぐらいに数字をチェックして、もし上振れしているようならば、すぐに原因を確かめて調整していました」

 「BtoBプラットフォーム受発注」は、取引情報がすべてデータ化されているので、原因の検証もスムーズかつ正確に行なうことができます。

大林 「『何日から何日までの発注は?』『あのイベント期間の発注は?』というように、こちらが見たい特定期間を指定したり、対前年比や対前月比の数字もリアルタイムで見られます。食材ごとに確認すれば、『肉が多すぎた』『魚が多すぎた』などの発注ミスを見つけることもできます。いつ発注した何に問題があったのか、すぐに検証することができるのです」

 こうした検証を紙の伝票で行なおうと思ったら、膨大な伝票を振り返らなければならないため、途方もない労力がかかります。というか、紙に書かれた数字をすべて調べ直し、検証することは、現実的に不可能だといわざるをえません。

 となれば、原因があいまいなままか、「たぶん○○がよくなかったのだろう」という不確かな検証に基づいて、営業を続けていかなければなりません。それこそ、まさに「どんぶり経営」です。

 大林さんは前職時代、最大で400席、売上規模で言えば月9000万円の繁盛店を任されていたそうです。「グローバルダイニングでもっとも難しい店」とまで言われていたというその店のマネージメントを支えていたのが、「BtoBプラットフォーム受発注」を駆使した徹底した数字管理だったのです。

経営感覚を持った
従業員を育成する

 2016年現在、大林さんが代表を務める株式会社Big Bellyでは、アガリコブランドの直営店5店、フランチャイズ5店のほか、客単価が近い他ブランドの店舗も含めて、合計で25店舗を経営しています。

 各店の発注はすべて「BtoBプラットフォーム受発注」を使用。仕入先は、管理の負担を減らすために7、8社に絞り込み、そのすべての取引先でも「BtoBプラットフォーム受発注」が導入されています。ファックスや電話での発注、紙の伝票でのやりとりは一切行なわず、すべての取引がシステム化されているのです。

 仕入は各店の仕入担当者に任せて、オーナーである大林さんは各店から毎日上がってくる当日の売上や原価、その月に使える残りの仕入額などの数字をチェックするのみ。定期的な店長会議はいっさい行なっていません。その代わり、原価が上振れするなど、数字を見て気になる店舗があれば連絡をして、「原因は何か?」「どうすれば正常化できるか?」などを検討して、すぐに改善に着手しています。

各店の担当者はiPadで「BtoBプラットフォーム受発注」を利用します。(写真:疋田千里)


大林 「毎日細かく数字を上げていくのは、たしかに面倒だし、従業員の中には『なんでこんなことやっているんだろう?』と感じている人もいるかもしれません。しかし、いざ独立して、自分の店の経営を見るようになったときに、その“数字を見る目”は絶対に役に立つんです」

 本連載の1回目で、私は「ITサービスはあくまで道具であり、ITサービスによって何を実現するのか(したいのか)という自分たちの店の理想や目標を明確にしたうえで使用してこそ、効力を発揮してくれる」と書きました。

 大林さんは「今いる従業員にお店を持たせて、オーナーにしたい」「多店舗展開ではなく、独立支援をしたい」といいます。仕入の数字をこと細かに管理できる「BtoBプラットフォーム受発注」は、経営感覚を持つスタッフの育成にも一役買っていたのです。