避難区域内にはほかにも複数の企業が生産拠点を置く
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 原発事故によって、ついに大手企業で初めて生産拠点の撤退を余儀なくされることになった。福島第1原子力発電所から20キロメートル圏内にあるTOTOの全額出資子会社、TOTOファインセラミックスの楢葉工場と富岡工場が、事実上撤退することになったのだ。

 両工場では光ファイバーコネクタや半導体製造装置部品といったセラミックス製品を生産していたが、すでに他工場に生産設備を新設、順次、移管していく方針だ。

 TOTOは、東日本大震災の発生翌日から張本邦雄社長の陣頭指揮で緊急対応を取ってきた。ウォシュレットやキッチンの生産設備が停電の影響で止まり、部品調達も滞るなど対応に追われたが、今ではほぼ正常化している。

 ところがセラミックス製品を作る前述の2工場については、福島原発の事故により立ち入ることすらできていない。

「他社のものではなくTOTOの製品が欲しい」と同社の技術力を高く評価する海外のエレクトロニクス系顧客からの要望に応えるため、震災数日後から協力会社によるOEM生産でしのいできたが、原発事故の処理は遅々として進まず、工場再開のメドがまったく立たない。

 そのため5月、避難圏内への一時立ち入り許可が出た際に従業員が防護服を着て重要なサーバを取り出すなど、撤退に向けた準備を進めてきた。

 気になるのは業績への影響だが、同社は「軽微」と説明する。というのもTOTOはこの4月、セラミック事業の生産拠点の集約・整備を予定。富岡を閉鎖し、大分県中津市にあるTOTO本体のセラミックス製品製造工場を子会社に統合することで、赤字続きの同事業を今年度、黒字化させる算段だった。

 想定外の原発事故で、計画とは違ったかたちになったが、会社としては図らずも集約・整備が進んだといえる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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