井手英策氏の理論を具体化
政策で国民の理解を得られるか

「本調査会は、井手英策教授の提言が提起した国際社会、経済情勢、政治環境に対する認識を十分共有し、その改革の理念、哲学、方向性を一にして、今後、最終報告に向けた更なる具体化の論議を真摯に行っていく」

 中間報告にそう書かれている。民進党はアベノミクスへの対案を、井手教授の経済理論に依拠して政策化する、というのだ。

 井手は、慶応大経済学部の若手財政学者。リベラル系でありながら政府税制調査会の重鎮である神野直彦東大名誉教授の門下生だ。

 戦後の一時期を除くと、政党と一線を画すのが学者の作法とされてきたが、井手は、学問の精華を現実の政治に活かそうと一線を踏み越えた。時代が大きく動く時、政治家にも学者にも殻を破る者が現れ、理論と実践の融合が問われる。井手は財政学者として「ユニバーサリズム」という分配論を説いている。

 金持ちも、貧乏人も、税率は等しくする。集めたカネは所得に関係なく均一の行政サービスとして給付する。「麻生財務相のお孫さんも児童手当の対象になる」という仕組みだ。行政サービスに貧富の差を設けないことで、「生活保護を受けている」というような負い目をなくし、所得制限に絡む煩雑な行政事務を省くこともできる。

 一律税率でも高額所得者は多額の税金を納めることになる。一律の行政サービスで貧者は納めた税金以上の受益をすることになる。所得の再分配というと、所得に従い税率が上がる累進課税や、貧しい人だけに「ほどこし」をする所得制限が日本では一般的だ。井手理論では、そうした所得による「差別」をしない。

「中間報告」は蓮舫代表が了承し、これから具体的な政策の肉付けを行う。国民の理解の前に民進党の議員や活動家が「理念と現実の差」をどこまでかみ砕くことができるかが関門だろう。

 成長が限界に近づいた先進国は、公正な分配が政策の要となる時代だ。だがメディアも戸惑っている。ニュース価値を判断できない「規格外れの動き」のなかに、後に社会を動かす一里塚が刻まれていることがある。

(デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)