One to Oneマーケティングは、
馴染みの八百屋さん、魚屋さんの発想と同じ

 One to Oneマーケティングは、顧客一人ひとりの嗜好やニーズ、購買履歴などに合わせて個々の顧客に展開されるマーケティング手法です。それに対してテレビや雑誌などのマスメディアを使った従来のマーケティング手法は“マス・マーケティング”といいます。

 One to Oneマーケティングは新しい考え方のように思えますが、実はマスメディアが発達する以前のマーケティング手法と類似する部分があります。マスメディアが発達する以前は、企業と顧客はより近い関係にありました。商店街の八百屋や魚屋をイメージしていただくといいでしょうが、商店主は個々の顧客の家族構成や購買履歴、嗜好を頭に入れ、その日の商品の中から顧客の好みやニーズに合わせて商品を勧める、というマーケティング手法を用いていました。これは狭い商圏で顧客が限定され、さらにFace to Faceで対応できるからこそ成り立ってきたやり方です。

 しかし、マクドナルドのように店舗が何千店もあり、顧客が数千万人にものぼり、接客スタッフが何万人もいる大企業がこの手法を取り入れるのは容易なことではありません。「明日からOne to Oneマーケティングを始めよう」と思ってもそれは不可能です。

 One to Oneマーケティングを実施するには準備期間が必要です。それは多数の顧客の購買履歴の収集と、顧客と接点を持つための会員登録(メールアドレスの取得)が必要だからです。そしてそれを可能にしたのがIT技術の発展です。八百屋の商店主の頭がコンピュータに置き換わったことで、何千万人の顧客データの蓄積と分析が可能になりました。

 マクドナルドではOne to Oneマーケティングを開始するまでに長い年月をかけて準備し、300億円もの先行投資をしてきました。初めに動きが表面化したのは、NTTドコモと合弁でe-マーケティングの新会社「The JV」を設立した2007年7月のことです。その後2008年に個人の購買履歴の収集につながるおサイフケータイを使った新サービス「かざすクーポン」を開始し、2009年には同サービスの全国店舗への導入を完了。それから2年を経て、多くの顧客の購買履歴データが蓄積されたところでOne to Oneマーケティングの本格導入にいたりました。

 マクドナルドがOne to Oneマーケティングを開始するのにあたってタッグを組んだのがNTTドコモです。なぜNTTドコモだったのか。それはマクドナルドのOne to Oneマーケティングに携帯電話が欠かせない存在だからです。