「偉そうな人物」が伸びない理由
立場を得て偉そうにする人物は、それ以上伸びない――。
長く生きてきて、そう確信しています。考えてみれば当然のことです。「いい仕事をしよう」「大きな仕事をしよう」と思ったら、周りの人々の思惑や気持ちをしっかりとくみ取って、彼らの気持ちを高めることが不可欠。それが、大きな成果を生み出す鉄則なのです。そのためには、偉そうにしたり、誰かを威圧するのは逆効果。立場の高低にかかわらず、すべての人々と心を通わせることこそが成功の秘訣なのです。
ところが、これができない人が多い。
以前、私の運転手がぼやいていました。
彼は、現地のごくごく一般的な家庭出身のマレー人。ある日、彼に上流階級に属する友人の家に届け物を頼んだことがあります。友人の家に到着した彼が呼び鈴を鳴らすと、普通はメイドさんが出てきて対応してくれるのですが、その日はたまたまメイドさんがいなかったようで、奥さんが出てきたそうです。ところが、届け物に自ら触れようともせず、「そこのポストボックスに入れたらどう?」と言って部屋に戻って行ったといいます。「あなたのような人間から直接受け取らない」と言わんばかりの態度に、彼はおおいに傷ついたようでした。
彼からは、こんな話も聞きました。休日にショッピングセンターを歩いていると、私が親しくしている事業家と出会ったので挨拶をしようと手を差し出したら、プイと横を向いて行ってしまったというのです。あまりに失礼な態度に、彼は憤りを隠しませんでした。私は、「それは申し訳なかった。彼はそういう男だから気にするな」となだめたものです。
幸いなことに、私にはこのような話をしてくれる部下がいるからよくわかるのですが、彼らは不快な人物と接触すると、「あいつは気位が高くて生意気だ」などと、それぞれのコミュニティで話題にします。これが、社会的な評判をつくり出していくのです。もちろん、彼らの多くは社会的地位には恵まれていませんから、悪い評判が囁かれていても直接的な打撃はあまりないでしょう。
しかし、いわゆる上流階級に属する人間のほうが圧倒的な少数派であることを忘れてはなりません。いざなんらかのトラブルに巻き込まれたときに、人々に反感をもたれている人物は叩きのめされることになるでしょう。逆に、日ごろ好感をもたれている人物は、普段から大事にしてもらえるのみならず、トラブルに遭遇しても陰に陽に助けてもらえるのです。
つまり、実は、私たちは、自分よりも立場の弱い人々に支えられているのです。これは、非常に重要な認識です。彼らに対して偉そうな態度をとるのは愚の骨頂で、むしろ、感謝の気持ちをもって彼らと接しなければならない。それが、身を守ることにつながるのです。