30席あったものを17席にし、小上がりの座敷とテーブル、カウンターを配してゆったりとしたレイアウトにした。宵の口、琥珀色の灯りに照らされた店内は魅惑的な空間で、ついつい酒を誘われてしまう。

1人ならカウンターへ、人数が多ければテーブル席へ、改まった席なら小上がりの座卓でくつろげる。琥珀色のアンバーな照明でまったりとしたひと時が過ごせる。

まるで近所付き合いのような
アットホームな雰囲気に心が解きほぐされる

 蕎麦屋と聞いてやってきた人は、そのイメージの違いから、ここでのもてなしにちょっと驚くに違いない。

 その外観や店の造りに最初は敷居が高く感じるが、店の雰囲気は意外にアット・ホームだ。店に入って間もなく、その接待に心が解きほぐされる。町蕎麦を2代続けてきたからなのか、まるで近所の家にやってきたような、そんな家族的な雰囲気がいい。

亭主の高橋定雄さん。まだ30代前半と若いが、厨房から客の食べるペース、好みを鋭く感じ取る。名店育ちの筋の良さが現れている。

 亭主の高橋さんの修業先は、あの名店、柏「竹やぶ」だった。「竹やぶ」の店主は業界では天才と称されてきた。

「『竹やぶ』は、アミューズメントパークのような蕎麦屋だ」と高橋さんは言う。

「竹やぶ」には客への刺激的な“もてなし”があった。そんな丸ごとエンターテイメントの宇宙のような蕎麦屋で育っただけに、蕎麦屋の善し悪しは蕎麦だけの単純な評価では計れないと高橋さんが言う理由がそこにあった。

 高橋さんの祖父、父が町蕎麦屋を永く営んできた。3代目の彼は物心ついた頃には店の厨房で手伝っていて、小学生になると「自分は蕎麦屋になる」と言ってきた。

「子供心に親を喜ばせようとしてきたのかもしれない」と言う高橋さんは、高校を出るとすぐに調理専門学校に入る。卒業を前に目にした、学校の求人情報には有名蕎麦屋が2店あった。そのひとつが柏「竹やぶ」だった。