蕎麦殻の釉薬で飾られた器の中に
選び抜かれた食材が美しく飾られる

「自分が思い描く器で客の心をもてなしたい」――。常々そう考えていた高橋さんは、「じゅうさん」を開く前から、蕎麦殻で器の釉薬を作ることを陶芸家と話し合いながら実験してきた。

 蕎麦殻は大半が産業廃棄物として捨てられる。しかし、高橋さんと陶芸家の手によって、捨てられていた蕎麦殻は美しい釉薬に変容し、器を飾っていた。

新江古田「じゅうさん」――名店の呪縛から解かれた男が生み出す、器の中のエンターテインメント定番になった白和え。蕎麦殻の釉薬で飾られた器に季節の野菜をアンサンブルのように組み合わせる。シンプルな作品だけに野菜が命だ。

 その器に季節野菜の白和えが盛られていた。スナップエンドウ豆、春菊などを軽く塩を振って豆腐を和えて味付けしたものだが、その組み合わせの妙がこの一品と感じさせるものだった。

 野菜は独自のルートと接触して仕入れている。食材を生で齧り、フレンチのシェフのように自らの舌で食材を下調べする。

 生まれ育ちのわかる食材を使って、アンサンブルのように同調する美味しさを組み合わせる。食材に意味を求め、料理に必然の答えを出していきたいという。

 焼き味噌はその美しさに箸を入れるのを躊躇する。思い切って、一箸摘んで舐めると、辛味に混じってなんともいえない旨みが舌に落ちる。それは海老がブレンドされているからだ。味噌と同調するよい相性なのだ。蕎麦屋の定番の焼き味噌が器ごと別なものになっているようだ。

新江古田「じゅうさん」――名店の呪縛から解かれた男が生み出す、器の中のエンターテインメント焼き味噌の器も亭主が絵付けをした。美しいだけでなく味噌が冷めないよう鉄板に乗って現れる。海老が味噌の旨みを倍化する。塩み、甘み、辛み、苦味、旨み、が詰まった逸品。