中国では、野田新首相に対してA級戦犯発言に注目が集まる一方で、「中庸」の政治姿勢に期待する声もある。ただ、来年の日中国交正常化40周年を前にしても、緊密さを増していく経済と離心していく政治の矛盾は解決できそうにない。(在北京ジャーナリスト 陳言)

戦犯問題と日米同盟
野田氏の政治的イメージ

 日本では野田新内閣を表すのに「ドジョウ」という言葉をよく聞くが、野田新首相自身の言葉である「中庸」はあまり聞かない。しかし、中国のテレビ、新聞では、野田内閣を「中庸」内閣と見ており、あるいは中庸になってもらいたいという気持ちで、そのように野田内閣に期待をかけている。

 台湾の学会に参加しながら、テレビの取材を受けた清華大学の劉江永教授は、「野田さんは、中庸の政治を行うだろう」と何度も話した。また週刊経済新聞の『経済観察報』(2011年9月5日付け)でも、日本人評論家の近藤大介氏の記事が「オブザーバー」紙面のトップを飾り、さらに他の紙面も借りるほど、「中庸政治」について十二分なスペースを割いて論じている。

 たぶん両者とも月刊誌に発表した野田新首相の論文「わが政権構想 今こそ『中庸』の政治を」を読んで、野田内閣をそのように見ていたのだろう。一方、大衆紙の『新快報』(2011年9月1日)は、中庸に期待をかけるより、先の民主党代表選では外交などはあまり議論されなかったことでもあり、「60日間ぐらいは、新内閣を静観しよう」と書いている。

 近藤論文では、あえて中国や日本で注目されている「A級戦犯と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」という野田新首相の持論にはまったく触れずに、野田内閣の対中外交の可能性については、以下4点にまとめていた。

1)アメリカの国益に背くような対中政策は取らず、
2)政治より経済と金融の面でまず中国と話し合い、
3)中日外交よりも多国間の外交を重視し、
4)日本の国家利益を優先にして、その利益に反する中国の行動に対してはしっかりとした措置を取る。