景気分析には約束事がある。景気は「まず、鉱工業生産をみよ!」である。この常識は一面正しいが、あまりに教条的に信じると、雇用の実体を見過ごしてしまう。

 国民にとって豊かさを取り戻すためには、雇用拡大・賃金上昇が最重要の課題である。それなのに、エコノミストの景気分析が生産・輸出・収益のことばかりに関心を注ぎ、雇用の在り様に無頓着になると、有用な政策提言もできなくなる。一昔前の流行語を使うと、「バカの壁」がここにはある。

製造業の生産拡大と雇用拡大が
イコールではないという証拠

 そこで、製造業の生産拡大≠雇用拡大の証拠を挙げてみたい。グラフは、鉱工業生産指数と就業者数の対応関係を示している(図表1参照)。明らかなのは、両者はリンクしていないことだ。

 製造業の就業者数はトレンドとして右肩下がりであり、過去20年間にわたってトレンドに変わりがない。今になって「産業空洞化」が不安視されるが、もっと昔から生産水準の回復とは半ば独立に就業者数が減っているのである。

 おそらく製造業は、周期的に訪れる生産調整の度に、大規模なリストラを行なって、その後生産回復する局面であっても、雇用を増やしてこなかった。この状況は、「工場が海外移転するから製造業の雇用者が減る」というステレオタイプと事情が異なっている。

 なぜ、製造業が就業者を増やさないのかというと、資本投入を通じて生産性上昇を行なっている事情がある。特に輸出産業は、雇用を増やしながら労働生産性を上昇させるのではなく、設備投資を行なって資本の生産性を高めようとする。

 円高が進むと、競争力を維持しようとして、雇用を削減しながら設備投資を増やす対応を採ると説明すればわかりやすい。