鹿島コンビナートが大幅減産も<br />震災が促す化学産業の再編鹿島コンビナートは急ピッチの震災復旧で操業再開を果たしたが、水面下で変化の波が押し寄せていた
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 電機産業や自動車産業を川上で支えてきた化学産業が東日本大震災を機に国内減産へ動き出した。舞台は茨城県の鹿島コンビナートだ。ここの主力品の一つは水道管や建材などに使う塩化ビニル樹脂で、化学メーカー5社は共同出資会社で原料を生産してきた。その共同出資会社から旭硝子、カネカ、ADEKAの3社が撤退する最終調整が水面下で進んでいるのだ。

 内需低迷が続くなかで3社は共同出資会社が生産した原料をほとんど使わなくなり、撤退議論は数年前から始まっていた。ある当事者によると「撤退側が支払う手切れ金の額が折り合わないまま結論が先延ばしになっていた」のだが、コンビナートが3月に東日本大震災で被災したことを受け、復旧費用や内需減少を見据えての議論が加速した。順調に合意に達すれば2012年3月にも3社は株式を信越化学工業に売却して撤退する。

 もっとも、3社が撤退するだけでは減産につながらない。残る出資者である三菱化学が供給するエチレンを使って共同出資会社が塩ビ樹脂原料を生産し、同じく出資者である信越が原料を一手に引き受けて塩ビ樹脂を生産するという流れそのものは変化しないからだ。

 しかし、3社の撤退を機に信越も鹿島での塩ビ樹脂生産停止や大幅縮小を決断する可能性が生まれる。各社に分担されていた高い電力費用や固定費の多くを信越が背負うことになる。塩ビ樹脂世界最大手である信越は海外にコスト競争力の高い生産設備を豊富に持つだけに、鹿島での生産に合理性が見出しにくくなるはずだ。

 信越が鹿島での生産停止や縮小を決めると、今度は三菱のエチレンが余剰になる。当面は中国への輸出で稼げたとしても、低価格攻勢を仕掛ける中東勢の生産能力が急拡大しており、円高でも苦しむ日本勢の輸出分を駆逐するのは時間の問題だ。

 化学基地であるコンビナートでは、塩ビ以外にも多種多様な化学品が生産されており、中核のエチレン設備を止めることは容易ではない。ただ、鹿島には三菱のエチレン設備が2基あり、1基への集約は調整のしようがある。実際、三菱は西日本最大の水島コンビナート(岡山県)で今年3月、旭化成とエチレン事業の統合体を発足させた。これにより、両社が1基ずつ持つエチレン設備を共同運営し、将来的に1基へ集約できる体制を整えた。

 化学メーカーはすでに生産コストの安い新興国などへ設備投資をシフトさせている。過剰な国内設備を再編して収益力を高めることが国際競争力につながることは明らかで、最大手の三菱が次の手を打てば、他社も背中を押され、コンビナート、ひいては化学メーカーの再編にもつながろう。震災が促した鹿島の変化は、業界大再編の引き金となるかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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