赤ちゃんVS赤ちゃん。その結末は?

 私は、おそれ多くも、W先輩に対して「赤ちゃん肌理論」を使ってみたことがあります。W先輩と電話で話し、用件を終えても、電話をお互い切らない。

 赤ちゃんと赤ちゃんの対決。いったい、どうなったと思いますか?

 沈黙が続きました(笑)。

 W先輩が先に電話を切る様子はありません。沈黙に耐えきれなくなった私が「もしもし?」と声をかけると、「もしもし?」と返ってくる。

 結局は気まずくなって、私のほうから「すみません。切ります」と受話器を置いたのです。

 私の負け。その頃は、以前と違い、私もだいぶ「気遣い」ができるようになっていましたが、“本家の赤ちゃん”にはかないませんでした。

上司が松尾芭蕉に変身!「電話で一句理論」

 「ぶっちぎり理論38」に興味を持っていただき、取材をしていただいた某大手新聞記者さんから聞いた話です。

 特ダネがいつ飛び込んでくるかわからない新聞業界で、情報提供の電話は重要な情報源。その情報提供の電話にまつわるエピソードです。

 まだ記者さんが新人時代の話です。

 あと数分で原稿締切という緊張感みなぎる時間帯。もし時間に遅れると、印刷が間に合わなくなり、自分の記事に穴が空いてしまいます。みんな事故を起こすまいと、必死にパソコンに向かい合っていたそうです。

 そんなとき、一本の電話が!

 普段ならデスクの女性が対応してくれるのですが、すでに遅い時間であるため、オフィスには血眼で原稿に集中する記者しかいません。

 いま原稿を打つのをやめると、確実に締切に遅れる……と思いつつ、電話に出ようとすると、タッチの差で上司が電話に出てくれました。

 ホッと安心しつつ、原稿に集中していると、上司の声に異変が!

 「えっ、はい。もっと詳しく教えてください」。

 どうも重要な電話のようです。

 上司は緊張した面持ちで、質問を繰り返し、電話の内容を整理しています。が、上司も急に電話を取ったため、ペンとメモを持っておらず、耳と肩で受話器を挟みながら、机の上や引き出しを開け閉めして、筆記用具を探しています。

 そこで彼が、上司にさっとペンとメモを差し出したところ、空いてる片手で「サンキュー」と合図をしながら、筆記用具を受け取り、その場で立ったまま電話取材を続けました。

 その姿はまるで松尾芭蕉! 電話を持ちつつ、まるで俳句を作る俳人のような凛々しい立ち姿でメモをしたそうです。

 私は、これを「電話で一句理論」と名づけました。

 もちろん、電話を終えた上司から「気がきくな。助かったよ」と言われ、彼はうれしくなったそうです。

 ぜひまわりの人が電話に出た際は、筆記用具を渡せるチャンスはないかを探ってみてください。小さいけれど、大きな貢献ができるチャンスがそこにはあるのです。