前菜から料理、天ぷら、蕎麦まで揃った
夜のコースは3830円とリーズナブル

「坐忘」の蕎麦懐石はリーズナブルだ。夜の酒肴コースが3830円で前菜から料理、天ぷら、蕎麦まである。

 この日の前菜は、涼しげなオクラ摺り流しに入ったすくい豆腐。すくい豆腐は自家製でとろりとして、摺り流しと絡めていただく。しぎ焼きは茄子の他にズッキーニやピーマンが入って彩が美しい。酒のあてには甘酢漬け、トマト、太胡瓜、大根が程よい甘みで、辛口の日本酒とよく合う。季節には旬ものを使った焼き物、蒸し物、そして、鴨料理に特別な趣向がある。

(写真左)前菜3点。手前は自家製すくい豆腐にオクラの摺り流し、左上は茄子、ズッキーニ、ピーマンのしぎ焼き、隣が甘酢漬け。(写真右)オクラ摺り流しと合わせていただく自家製のすくい豆腐は絶品。涼しげなガラス椀の景色で日本酒をいただく。

 アラカルトでも十分満足できる料理はあるが、やはりここではコースをいただきたいものだ。時には都心を離れて、高級な和食店に飽きたあの人をもてなすよい席になる。

(写真左)定番の出し巻き玉子焼き。甘みを抑えて酒のあてになるように作られる。(写真右)ししゃもと鴨。鴨はミディアムに焼いてソースがかかる。肉と魚を組み合わせた「坐忘」ならではの肴。

 蕎麦は常時3タイプが用意されている。粗挽きとせいろと変わり蕎麦※3だ。この日の粗挽きは蕎麦の表情に面白みがあった。やや薄緑に包まれた麺体に細かな星が均等に散らばり、粗挽き特有のやや透明な質感がそれだ。風味がふわりと押し寄せて、噛み含めるとざらりとした食感が野趣みを感じさせる。

薄緑でやや透明な質感のある粗挽き蕎麦。蕎麦特有の陽だまりのような匂いがふわりと立った。粗挽き蕎麦は最近流行の粉取りだが、「坐忘」ではドイツ製の製粉機で実験もしている。

 
※3 変わり蕎麦:白い更科蕎麦に香りのある食材や色の鮮やかな食材を練りこむ。一茶庵系の2色、3色蕎麦が有名で同じ蒸篭に盛ったり、2段、3段とせいろを分けるところがある。更科系列では12ヵ月季節の食材で打ち分ける処もある。柚子や芥子きりはポピュラーだが、変わったのでは唐辛子、うこん、笹、カボチャなどもあって楽しませてくれる。