今、日本の有力企業で、管理職登用試験に多く導入されている問題解決トレーニング「インバスケット」をご存知だろうか? これは、架空の人物や役職になりきり、制限時間内に次々に降りかかる未処理案件の処理を行なっていくという問題解決トレーニングだ。
このインバスケット、もともとはアメリカ生まれ。1950年代、空軍において将校候補生の学習習熟度や応用度を測定するため、開発されたとされている。そして今や日本では、数多くの一流企業が、管理職の選抜試験や研修・教育に導入しているというのだ。
インバスケットは、「優先順位がつけられない」「意思決定が明確でない」「部下がついてこない」「とにかく毎日忙しい」……などと感じている人にこそ、有効とされる。インバスケットは知識ではなく“道具”であり、本来持つスキルや能力を発揮するためのツールなのだ。
ここで、注目されている書籍をご紹介したい。『インバスケット思考』(WAVE出版)は、今年6月の発売以来、早くも7万部を突破した(9月末現在)。著者の鳥原隆志氏は、日本で唯一のインバスケット・コンサルタントとして活躍している。数多くの大手顧客を持ち、大阪にある彼の事務所では、東京に本社を構える上場企業の人事・管理部門の担当者達からも、研修の相談が引きも切らないという。
この『インバスケット思考』の一番の特色は、インバスケットを実際に体験するために、実践問題が大部分を占めていること。たとえば、洋菓子店に勤務する23歳の青山みあは、突然店長職を命じられる。そんなみあになりきって、未知である20の案件を60分で処理していく……そんな仕掛けとなっている。
筆者もチャレンジしてみたが、リーダーの役割や部下との信頼関係の構築法、労務管理、資料解析法、予想外のトラブル対処法など、次から次へと難問が降りかかる。迷いながらも次々と問題に立ち向かっていくのだが、メンター役とも言える教育係のアドバイスと解説を読むうちに、20の案件に対する解決法の要諦が不思議なくらいに腑に落ちていく。
主人公が若い女性ということ、さらにはストーリー仕立てになっているということで、かの『もしドラ』を彷彿とさせる雰囲気を醸し出している。だからこそ、ヒロインである青山みあに感情移入しながら、様々な問題を疑似体験し、問題発見力や分析力、創造力、対人スキル、組織活用力……といった能力やスキルの本質がわかりやすく身に付くのが、読者に支持される最も大きな理由であろう。
そして筆者自身、この本を読んだ後では、仕事やメール処理のスピードと質が、がぜんアップした感があった。とりわけ膨大な量のメール処理に関しては、「緊急を要するもの」「普通のもの」「不要のもの」と瞬時に判別できた気がして、思わずその“効能”に満足感を得た。速効性があるように感じられるのも、本書の魅力であろう。とりわけ、日々忙殺されている人や部下を持つリーダーには、お薦めしたい。
(田島 薫/5時から作家塾(R))