求められる
多面的な理論の融合

 行動経済学が“社会科学”と言えるか否かについては、さまざまな主張が繰り広げられてきた。伝統的な経済学の説明能力が高いと考えている専門家にとっては、「心理学」という従来の経済学にはなかった理論や手法を持ち込むことに違和感を持つ見方もあるようだ。

 言ってみれば、“畑違い”に理論を持ちこんでいるという印象かもしれない。ただ、3度にわたって行動経済学がノーベル経済学賞の対象となった事実は、この学問が「社会科学の重要な分野」として世界に認められてきたことの証とも言えるだろう。

 重要なことは、さまざまな分野の手法を応用して、短期から長期までの経済の変化を分析の対象とした、説明能力の高い理論を構築していくことである。

 すでに、物理学の理論を応用して金融市場や経済の推移を説明しようとする“物理経済学”等、さまざまな分野の理論を用いた経済の研究が進んでいる。多様な分野の理論と経済学が融合し、従来とは異なる視点から経済に関する理論が提唱されることが増えるかもしれない。

 今後の展開として注目される一つが、ネットワークサイエンスと経済学との融合がある。情報通信技術(ICT)の発達とともに、“仮想通貨”など従来は考えられなかった経済取引が実現してきた。いままでなかった発想の実用化などの創造的破壊がどのように発生し、社会に広がっていくかが解明されれば、経済のあり方、政策の立案と運営などに関する“常識”は根底から覆されるだろう。

 アカデミズムの有効性の一つは、さまざまな現象の本質をシンプルに普遍性のある形で解き明かし、提示することにある。セイラー教授の研究姿勢は、まさにこの目的に合致している。今日の世界経済では、変化が急速かつ非連続に発生する。その中で、普遍性ある理論の構築と体系化を目指すためには、特定の分野に固執するのではなく、社会の変化に応じて必要と考えられる発想や手法を柔軟に応用していくことが求められるだろう。

 そのためにも、セイラー教授のノーベル経済学賞受賞により、多くの人々が行動経済学に関心を持ち、実社会の動きに合った経済学へのニーズが高まることを期待したい。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)