英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は日本の円売り介入(yen intervention)についてです。市場に衝撃を与えた割には効果が薄く一時的だと言われたり、効果が薄いが「通貨戦争」につながる恐れがあるという懸念が指摘されたりする一方で、20カ国・地域(G20)首脳会議による対策に期待できないのだから日本としては無理もない措置だと理解を示す記事もありました。国際社会の慣習と国益のバランスをとるのが困難な時に、日本はどう振る舞うのかという話でもあります。(gooニュース 加藤祐子)

国益優先すれば通貨戦争の懸念?

 いきなり大風呂敷を広げますが、戦後日本は、世界のルールに従う国際協調の国というイメージ定着に腐心してきた国だと言えるでしょう。敗戦国であり、故にもちろん覇権国ではないので、国際ルールを作る側に立つこともなく、国際ルールを一方的に単独で破ることもなるべくしないよう、一生懸命努めてきた。それが復興と繁栄につながっていたから。

 問題は、国際ルールや国際慣習が国益に寄与しないと思える時にどうするかで、そういう不本意な事態が重なると戦前日本のように、国際連盟を脱退したり、時の覇権国に「悪の枢軸」呼ばわりされたりするわけです。そして英語メディアに「pariah state (国際社会ののけ者国家)」と書かれてしまう。戦後日本はそうならないよう、必死になってがんばってきたのだと言えます。覇権国アメリカとの友好を第一に、国際社会の良き一員であることを是として。

 けれども国際慣習やルールに従う一方では国益が損なわれてしまう、そういう時はどうするべきか。国際社会の一員として正規の手続きに従い、国益にかなうようなルールや慣習変更に尽力するのが第一の選択肢のはずです。けれどもその効果が期待できないときは? 日本政府と日銀による10月31日の円売り介入は、大きな文脈で見ると、こうした国際協調と国益の困難なバランスの問題として捉えることができるかと思います。為替市場への単独介入は国際ルール違反ではありませんが、自由市場経済が一応の共通規範となっている国際社会ではそうめったにふるうべきでない伝家の宝刀だし、ふるえば「おやまあ」と眉をひそめられるという程度には国際慣習に触れているといえますから。

 G20を目前にした日本の単独介入に仏独当局は迷惑顔だが、その割には効果は期待できない。つまり、日本にとっては迷惑顔をされるだけマイナスな動きだったと示唆する論調を、英語圏の経済紙でいくつか見ました。

 米紙『ウォールストリート・ジャーナル』は11月1日付の「日本政府の円介入、疑念で曇る」という記事で、「国の輸出部門の海外競争力を奪い、日本経済の足を引っ張る円高を食い止めようと、日本当局者たちは苦労してきた」が、「日本政府による介入で円高が止まるのか、為替トレーダーたちはすでにその効果を疑っている」と書いています。

 そして同日の別の同紙記事は「日本、円を逆風にさらして進ませる」という見出しで、ここでも「今年の過去2回の介入同様、今回の介入の効果も長続きしないというのが市場ウオッチャーの見方だ」と書き、「ほんのわずかな効果」のために日銀が払った労力はすごいものだったというアナリストの意見を紹介。また、中央銀行がどうこうする以上に投資家が欧州危機からの避難先を必要としている限り、円高は続くだろうというアナリストの見方も。円を買い続ける投資家は、日本がどれだけ借金を抱えていて、どれだけ政治的な泥沼状態にあっても、それには目をつぶっているのだとも。

 英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』は今回の円売り介入を「日本の財務省による、古典的なワンツーパンチ」と呼びました(読んでつい思わず、「じ~んせいは」とつぶやきました)。いわく、財務省は「いつになく暖かい、ぼんやり霞がかった朝にまず約3兆円の円を売って、世間の眠気を一気に払った。そして続けざまに、トレーダーたちがカフェラテを置く間もないほどすかさず安住淳財務相を繰り出してきて、これで終わりじゃないぞ、まだ続くぞと言わせた」のだと。

 そして同紙は31日付社説を「円を抑止しない方法」と題して、日本の安住財務相が解決しようとした円高は確かに雇用喪失につながる問題だが、単独介入というその解は「根底の原因に満足に応えていない」と批判。介入直後は確かに円はドルに対して5.1%も値を下げたが、介入後には市場の力がまた作用するのだから、「介入措置の影響は限定的なものにとどまるだろう」と。しかも日本政府が(日本企業を守るために)介入した途端、強くなったドルで安い円を日本企業が買いまくるというパラドックスが生じるだろうとも。

 FT社説はさらに、「ほかの主要経済大国と協調的・持続的に行うのでなければ、通貨介入はうまくいかない」と、今回の日本政府による単独介入をはっきり批判しています。加えて、そもそも日銀が国内の金融対策をもっとしっかりやれば、為替レートの問題は消えてなくなるのにと。

 FTはかねてから日銀が、国内のデフレ対策に及び腰すぎると批判してきました。今回もその論調で、「日銀は以前から長いこと、他の経済大国の中央銀行が手出ししようとしない政策ツールで実験を重ねている。しかしたとえ展望は画期的でも、実施する規模はおおむね保守的で、日本のデフレ終了にほとんど役立っていない」とも。むしろ10年国債をねらったもっと「積極的な量的緩和の方が、円高圧力の緩和に寄与するだろう。加えてなにより、もっぱら停滞しきっている国内経済に刺激を与えるだろう」と提案しています。

 FTのアラン・ベイティー記者は「円売り介入はG20の不意をつく」というワシントン発の記事で、フランスで開かれるG20首脳会議を目前に一方的に通貨介入する日本政府の決断によって、日本をはじめとする各国政府は、G20による為替レート安定をほとんど期待していないことが明らかになったと書いています。さらに、G20の最終準備に忙しいフランス当局者たちは日本政府の介入が「G20各国の立場調整がいかに難しいかを強調する」、「unhelpful(助けにならない、ありがたくない)」動きだと迷惑顔だとも。

 別のFT記事は見出しを「円売り介入に通貨戦争の懸念」として、ここでも仏政府は介入の知らせを「落胆で受け止めた」と。そして「仏当局者たちは、カンヌのG20において通貨問題で合意するのは難しいと警告しつつ、G20諸国が互いに破壊的な通貨戦争に陥らないようにすると決意の程を示した」と書いています。またドイツでも政府関係者たちが「協調的な通貨介入の必要性を強調」し、日本政府の介入は「調整がとれていないように見える」と批判していたと。

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