「中途半端な小心者」が大きな過ちを犯す
このような誤った判断をする背景には「恐怖心」があります。
利益を出せなければ、資金繰りが悪くなる。株主から非難され、金融機関からも締め上げられるかもしれない。その「恐怖心」から逃れるために、原理原則を踏み外してしまう。いわば、小心者ゆえの間違いなのです。
しかし、だからといって、小心者であることを非難するのは当たらない、と私は考えています。むしろ、中途半端な小心者だからこそ、このような間違いを犯してしまうのです。たしかに、利益が出せないのは重大な問題です。しかし、これは、正しい努力をすれば解決できる問題。一時は苦労を強いられるでしょうが、組織が健全でありさえすれば挽回可能な問題なのです。
一方、原理原則を外れても、その瞬間に問題が顕在化するわけではありません。不謹慎な言い方ですが、たとえ原材料偽装をしても、世間にバレさえしなければ問題にはならない。だからこそ、利益が減ることを恐れる経営者は、ここに逃げ込もうとしてしまうのです。
しかし、これが組織を不健全にします。
社員たちは自分の仕事にプライドを失い、組織のモラールは地に落ちるでしょう。そして、経営状況を改善する正しい努力を放棄するに違いありません。会社が根底から腐り始めるのです。そして、不正が白日のもとにさらされた瞬間、すべては崩壊してしまうのです。
これほど、恐ろしいことがあるでしょうか? 私には、こんな恐ろしいことをする度胸はとてもありません。小心者だからこそ、原理原則を外すことができない。その強い恐怖感が、ブリヂストンCEOとしての私を突き動かしていた大きな原動力だったのです。