JR九州が昨年10月に株式上場してからはや1年。上場前に受けていたさまざまな優遇がなくなる中、名実共に「完全民営化」できるのか。鍵を握る鉄道事業の合理化に向けて一歩、動きだした。(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

「総合的なまちづくり企業グループ」──。およそ鉄道会社とは思えないようなビジョンを掲げるJR九州は、その言葉を体現するかのように、鉄道以外の不動産や流通事業を伸ばし、多角化にまい進している。

 不動産開発では昨年春に開業した博多駅ビルに続き、9月には福岡市内で住宅や老人ホーム、人気テナントを集めた商業棟を備える大型複合施設を開業した。分譲・賃貸マンション開発にも積極的で、その供給数はもうすぐ1万戸に到達する見込み。九州では有力デベロッパーとして名をはせる。

 多角化にはM&Aも駆使する。2007年に買収したドラッグストアは順調に店舗数を増やし、売上高500億円規模に成長。近年は訪日外国人向けの免税品販売が好調だ。他にも温泉旅館を買収し、流行を取り入れた高級旅館に改装するなど既存施設の再生にも商機を見いだしている。16年10月に株式上場してから初の決算となった17年3月期では、こうした多角化が功を奏し、売上高3829億円、営業利益は587億円と、まずまずの収益力である(図(1))。

 さらに最近は九州を飛び出し、東京や大阪、そして海外へも進出。中国では飲食店を展開し、タイでは不動産開発の準備を進める。

 旺盛な投資意欲は設備投資額にも表れている(図(2))。3カ年の中期経営計画では、成長領域への投資額を800億円と見積もったものの、18年3月期時点で相当額を投じたため、上振れする見込み。上昇気流に乗る今、その意欲が弱まる気配はない。

 重視する経営指標、EBITDA(減価償却前営業利益)では、鉄道、不動産、流通などを含むその他の割合を「4割、4割、2割」にすることを理想にしてきた。近年はおおむね理想通りに拡大推移し、多角化を図る経営戦略と財務は盤石のように見える(図(3))。

 ところが、である。結論から言えばJR九州の現状の財務は、上場時に特殊な会計処理を行った「お化粧した姿にすぎない」(証券アナリスト)。どういうことか。