「経済学を一般の人がわかるように翻訳する」ために。
後回しにされた「需要と供給」とうまく組み込まれた「ゲーム理論」
さらに、こうしたバウマンの(かなりマジメな)意識が垣間見れるのが、本書の「野心的な構成」だ。山形さんは、極めて重要な特徴を指摘する。
ミクロ経済学入門といえば真っ先に出てくるはずの需要曲線と供給曲線は、Part3に入るまで出てこない。「市場」という抽象的なものをいきなり示すことをしないのは、それが多人数の相互作用の総和なのだという理解を著者が意図しているからだ。
これはそれなりに賢明だと思う。MBA予備軍などで顕著だが、市場を抽象的に理解しすぎてしまうと、この世には全知全能の「市場」なる存在がいて、それがすべてを決めているかのように思い込んでしまう。本書を読めばそれを回避できるかはともかく、少なくとも市場について具体的な理解をさせるべく努力しているのはポイントが高い。
こうした「経済学を一般の人がわかるように翻訳する」ための工夫は本書のいたる所で顔を出す。
意思決定やリスクなどを扱いながら市場を構成する「合理的な個人」にまず最初に焦点を当て(Part1)、ゲーム理論や公平性の問題を扱って数人の間でのやりとり(Part2)を経由し、最後に「需要と供給」を含む抽象的な枠組みの解説(Part3)へと進んでいく。この順序こそ、本書が一般の人にも「とっつきやすく」なっている最大のポイントと言える。
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ちなみに、もはやミクロ経済学を語る際に外せない「ゲーム理論」の話をうまく組み込んでいることについて、山形さんはこう指摘する。
多くの概説書では、ゲーム理論を扱おうとするものの、他のミクロ経済学的な説明の流れと別枠になってしまい居心地悪げなものも多い。そんな中、本書のアプローチはなかなかうまい処理だと思うのだが。
学びやすい構成で、かつ抑えるべきポイントをすべてきっちり押さえている。本書の一番「うまい使い方」は、経済学を学ぶ際の「副読本」として楽しみながら学習するのに役立てることだと言えるだろう。
本書のマクロ経済学編である『この世で一番おもしろいマクロ経済学(仮)』も弊社から刊行予定。山形さん曰く、「では、マクロ経済学編の邦訳刊行まで、みなさんごきげんよう」。どうぞお楽しみに!
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(笑い声が大きいので、音量にはくれぐれもご注意ください)