先日、産経新聞に「『クレヨンしんちゃん』商標を使う中国食品大手が香港で上場へ」と題する記事が掲載された。
それによると、日本の人気漫画「クレヨンしんちゃん」の中国語名「蝋筆小新」を、スナック菓子など自社製品の商標として使っている食品大手、中国休閑食品集団が9日に香港証券市場で上場する、という。
記事では、「商標をめぐっては、発行元の双葉社が中国で著作権や商標権の侵害を訴えて裁判や無効審判を起こしてきたが、主張は退けられている。中国休閑食品は『商標とクレヨンしんちゃんは何の関係もない』と突っぱねており、法的にも問題ないとの立場を取っている」と記述している。
記者は筆者の友人である上海支局の河崎真澄氏だ。タイトルの付け方のうまさには舌を巻く。
日本側も権利の実行を怠った
ただ、この商標争いの裏には、日本側が権利の実行を怠ったという事実もあることを指摘しておきたい。拙著『中国ビジネスはネーミングで決まる』(平凡社新書、2008年)の第5章の中で、この問題に触れた箇所がある。その一部をかいつまんで紹介したい。
まず、日本の商標制度も中国の商標制度も、「先願主義」を採用していることを念頭に入れていただきたい。実際に使用しているいないにかかわらず、先に出願した方に原則として権利を付与する制度だ。
産経新聞の記事が報じる通り、「クレヨンしんちゃん」は中国で「蝋筆小新」と訳され、絶大な人気を集めている。ところが、中国語の商標権は日本の出版元である双葉社にあるのではなく、最初は広州市のあるメガネ会社が所有していた。2006年5月、双葉社は「偽者が本物を駆逐する悪意の先駆商標」だとして、北京で裁判を起こし、メガネ会社が所有する「蝋筆小新」の商標権の無効を求めた。