「問題だらけの小学校英語」にもチャンスは眠っている

この変革をめぐっては、「そもそも小学校に『教えられる人材』がいるのか?」という批判があります。「英語」の教員免許を持った小学校教員は、全体の5%ほどだそうですから、まさに全国で「無免許運転」がはじまろうとしていると言えなくもありません。

こうした混乱を予期してか、全国からたくさんの教員の方が「話を聞きたい」と言って僕のところに訪ねてきます。彼らから現場の状況をお聞きする限り、かなりハードな未来が待ち受けているのはたしかです。しばらくはゴタゴタもあるでしょうし、子どもたちにとって本質的なメリットがあるのかについても甚だ疑問です。

とはいえ、マイナス面ばかりを強調しても仕方ありません。保護者・教育者としてできるのは、この新しい仕組みをうまく生かすことです。ご自宅でできることは、無数にありますし、それがひとまずは成績アップという短期的な実利にもつながる以上、前向きに受けとめるべきでしょう。

また、小学校の先生にも工夫の余地はあります。いや、むしろ小学校のほうが中学・高校よりも環境的には恵まれているかもしれません。
すべての科目を一人で教える小学校の担任教師なら、ほかの科目の進捗状況を把握していますから、たとえば「算数」「理科」で学んだことを英語で復習してみたり、「国語」「社会」の内容を英語の視点でとらえ直したりする授業ができます。
すでに日本語で学んだ内容を英語で学び直せば、理解度が深まると同時に、知識に奥行きを持たせることができます。小学校「英語」の教室は、CLILのための環境としてはじつに理想的なのです。

一方で、従来型の学校英語の単なるミニチュア版が、小学生たちに押しつけられるような事態だけは絶対に避けるべきです。
中学受験の入試問題にペーパーテストだけの「英語」が導入されれば、「英語が嫌いな子」の割合は激増しかねません。これでは中学以降の学習にもマイナスです。子どもたちがモティベーションを持って学習に取り組めるよう、小学校の先生方にはぜひ工夫していただきたいと思います。

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)

【著者紹介】斉藤 淳(さいとう・じゅん)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。