問題3―合理的ではないスライド調整率

 問題はそれだけではない。ここまでの議論では、政府がしばしばそう説明するように、スライド調整率を0.9%ポイントとしてきたが、実際には、公的年金加入者の減少率実績の絶対値プラス0.3%ポイントとして定義されている。この定義は、後付けとみるのが妥当だ。財政再計算で想定されている物価上昇率1.0%から最大限差し引きうる0.9%ポイントという数値がまずあって、どちらかといえば定義はその後から考えられたのだ(注)

 冒頭、述べたように、年金数理の観点から、最も合理的な年金カットの方法は、即座に年金額をカットすることである。即座に年金額をカットすることが現実的には困難であるとしても、より短い期間に、より大きな幅で年金額をカットするほど、確実に年金財政は改善し、後の世代は楽になる。すなわち、マクロ経済スライドの仕組みに則っていえば、本則ルールの棚上げ期間をより短く、スライド調整率をより大きくすることが合理的である。

 しかし、この定義におけるスライド調整率の予測値は、傾向としてその逆になっている。スライド調整率は、2013年度の1.4%ポイントから2023年度と2024年度の0.8%ポイントまで低下した後上昇に転じ、2037年度は2.0%ポイントとなる。すなわち、後の世代ほど、給付抑制がきつくなるのである
(図表4)。

(注)04年の財政再計算時に、マクロ経済スライドが機能すると考えられていた2005年度から2023年度のスライド調整率の平均値は、確かにおおよそ0.9%ポイントになる。厚生労働省が、スライド調整率を0.9%ポイントと説明するのはこれを根拠にしている。

 しかし、マクロ経済スライドがいまだスタートしておらず、終了年度も最短でも38年度、実際にはそれ以上に及ぶ可能性が高い現在において、スライド調整率を0.9%ポイントと説明するのはもはや誤りである。