確かに筆者も中国へ出張の度、その便利さの恩恵を受けています。“バイ菌”満載の汚い紙幣を触らなくても済むと助かっています。

 しかし、これらの先進的ITサービスを、若者が「時代の進歩」の象徴のように享受すればするほど、その光の陰で、高齢者の日常生活には不便さが増していきます。

タクシーを拾えずに炎天下で倒れ
皮肉にも来たのはタクシーではなく救急車

 上海の60歳以上の人口率は32%で約460万人がいます。その上、一人暮らしや老夫婦だけの世帯が高齢者世帯の60%以上を占めています。

 日本と同様、高齢者の多くはスマホのさまざまなアプリを上手く使いこなせない方が普通です。

「使い方がわからない」、「見えないお金を使うのは騙されないのか」と不安を感じるうえに、「老眼でスマホの字が見えにくい」、「パスワードをいちいち覚えられない」など、高齢者であれば万国共通の悩みもあります。

 特にタクシーを拾う場合、高齢者が道端でいくら待っても来ず、目の前まで来ても停まってくれません。今年の夏には、気温40度に達した炎天下で、タクシーを待ち続けていた一人の高齢者が熱中症となってしまい、結局、皮肉にも来たのはタクシーではなく救急車でした。

 先月、中国の「敬老の日」に、ある会社員の女性が90代の祖父母に膝用のサポーターとマッサージ機をネットで購入し、その日に届けるように指定しました。

 ところが、荷物は玄関まで届けられず、マンション敷地内に新設された配達ボックスに入れられました。受け取るには携帯にショートメールで送った受取番号が必要で、もし24時間が過ぎたら、今度はウィーチャットでバーコードをスキャンし、新たな番号を取得しなければならない仕組みです。

 普段は携帯で通話しかしない90代の高齢者に、こんな複雑なやり方は到底できません。結局、敬老の日のための祖父母孝行の気持ちは無駄になってしまった、と女性は嘆いていました。