そうした正論を、大株主であるアクティビストファンドがアップルに対して直接表明したというのがすごいと思います。アップルの短期的な株価だけを考えるならば、今回のような意見を表明する必要はまったくなかったはずです。おそらく、この問題は深刻なので、いずれ大きな社会問題になるだろうし、そうなったらアップルの株価にも悪影響が生じるだろうと考えたのではないでしょうか。

日本では誰がこの問題を
声高に唱えてくれるのか?

 翻って日本を見ると、この問題は非常に深刻であるにもかかわらず、まずマスメディアでスマホやソーシャルメディア、さらにはネットゲームなどの悪影響を問題提起するところはほぼ皆無です。世の流れや先を読む力が落ちているのか、それらの製品やサービスを提供する企業は大スポンサーなので扱いにくいのでしょう。

 それならば、本来は米国のようにそれらの企業の大株主が問題を率直に指摘すべきです。特に、日本でも企業の持続的成長やコーポレートガバナンスの強化に向けた機関投資家による監督の重要性が謳われ、金融庁もスチュワードシップ・コードを策定しているのですから、なおさらです。

 ですが、日本でファンドなどの大株主がこの問題を指摘したというのは聞いたことがありません。残念ながら、日本の機関投資家の社会問題に対する意識は、まだまだなのかもしれません。

 しかし、米国と同様に日本でも、スマホ、ソーシャルメディア、ネットゲームなどの悪影響は子どものみならず大人にも生じているであろうことを考えると、そろそろ誰か影響力のあるプレーヤーがこの重要な問題を声高に指摘し、対応策を企業や社会が考えるように促すべきです。

 実際米国では、この公開書簡が提出された数日後に、アップルが将来的にペアレンタルコントロールの機能を充実させる意向を表明しました。誰か影響力あるプレーヤーが動けば、問題解決に向けた動きはできるのです。

 日本では、マスメディアや機関投資家にその役割が期待できないとしたら、この問題を指摘できる最後の砦は政府になってしまうのでしょうか。スマホ料金の引き下げや企業の賃上げといった、民間が自分で決めるべき問題も政府が最初に言い出す国だから、それが現実的なのかもしれませんね……。

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)