アップルが教科書市場へ本格的に進出――。このニュースは今、世間の評判を二分している。
1月19日にアップルが発表したのは、iPadでデジタル版教科書を提供するというもの。その価格は14.99ドルと、通常のアメリカの教科書のざっと3分の1ほど。まずは、3社の教科書出版社を手始めにして、今後はその数を充実させていくという。これに加えて、iBooksオーサーという教科書制作ツールもリリース。これを使えば、インターネットへのリンクやマルチメディア、インタラクティブ性も盛り込んだ教材を、学校の先生や出版社が独自に簡単に作れるという。
すでにあったiTunes Uも拡充させた。iTunes Uは、大学などの講義や教科書がインターネットに上げられ、世界中の誰もがアクセスできるようにしたものだが、そこへクイズ形式のテスト、教材、iBooksオーサーで作られたコンテンツなどを含められるようにし、コンピュータだけでなく、iPhone、iPod、iPadなどでも利用しやすくなった。遅れていた教育市場へ、救世主アップルがやってきたのだ。
教育を改革することは、スティーブ・ジョブズの長年の念願だった。そして、「教育は、アップルのDNAに深く結びついている」とアップルは自負する。デジタル時代に合ったフレキシブルでマルチメディアな教科書を提供するのは、その事始めだろう。いずれ機能をもっと拡大して、教育のエコシステムをアップルが築くような、大きな構想を持っていると考えられる。
確かに、アメリカの教科書市場はさまざまな問題を抱えてきた。ひとつは、その価格が高いこと。1冊40ドルから100ドルほどの値段がつけられており、ただでさえ経費カットの続く公立学校では痛い出費だ。これが大学生になれば、教科書の値段はもっと高くなる。
教科書が高いので、小学校や中学校、高校では学校が教科書を一括購入し、学生に貸し出すのが一般的で、平均して5年間は同じ教科書を生徒たちが使い回ししてきた。ただそうすると、その分出費は抑えられるが、特に歴史の教科書などは5年も経てば内容が古くなるという問題があった。大学レベルでは、教科書の古本が大きな市場となっており、学生は使い終わった教科書をすぐさま売って、その金でまた次の教科書を買うといったことを繰り返してきた。
ハードカバーの教科書が大きくてかさばるというのも、生徒たちを苦しめてきた。小さな小学生もバッグパックに何冊もの教科書を詰め込む。彼らは、まるで山登りのような姿で学校へ通っているのだ。
教科書がデジタルになれば、そうしたもろもろの問題が解決できる。かさばらず、内容は常に新しく、すぐにダウンロードできる。アメリカでは、先生が独自の教材を作って生徒に提供することが頻繁にあるが、それもiBooksオーサーで作って、すぐさま生徒に配ることが可能だ。何よりも、マルチメディアに慣れ親しんだ若い世代の感性のままに教科書を作れば、学習意欲も高まるだろう。