さらに言えば、学びが浅いと状況がちょっとでも違うと応用が利かないが、背景の原理を理解していれば違った状況にも応用が利く。

 営業力を発揮すべき具体的状況は様々なので、応用が利かなければ対処能力は低くなる。ゆえに、B君は新規案件が苦手なのだ。

 これに対しC君は、営業の背景にある基本的な知識を理解したいという思いが強く、さらに応用が利く知識や理論を積極的に吸収しようと努力していた。初めのうちはノルマを達成できなかったが、基本的な知識や応用力を身につけていくうち急激に伸びていったのである。

達成目標には「業績目標」と
「学習目標」がある

 B君とC君を比べると、C君の方が明らかに実力が伸びるタイプであるということについて、実は心理学的な裏づけがあるのだ。そのことを証明したのが、「達成目標」理論である。

 その種明かしをする前に、達成目標には「業績目標」と「学習目標」の2種類があるということを説明しておきたい。目標を持っていると一口に言っても、人によってその性質はかなり異なっている。

 例えば、江戸時代から明治時代への移行期の歴史について学ぶとしよう。「江戸時代から明治時代への移行期の歴史について深く理解したい」という目標を持つ場合と、「日本史の試験で良い成績を取りたい」という目標を持つ場合では、学ぶ姿勢がずいぶん違う感じがするだろう。

 仕事でも同様だ。営業部門の人が「商品知識や営業スキルを勉強して営業能力を高めたい」という目標を持つ場合と、「商品をどんどん売って営業成績を伸ばしたい」という目標を持つ場合とでは、仕事のモチベーションの方向がずいぶん違っている。

 では2つの目標は、いったい何が違うのか。それは、自分の能力向上や熟達度を重視するか、結果や周囲からの評価を重視するか、という違いである。

 そこで参考になるのが、米国の心理学者キャロル・ドゥェックの達成目標理論である。ドゥェックは、達成目標には「学習目標」と「業績目標」の2種類があるというのだ。

「学習目標」とは、何か新しいことを理解したり習得したりできるように、自分の能力を高めようとする目標のことである。一方「業績目標」とは結果を出すことであり、「自分の能力を肯定的に評価されたい」あるいは「否定的な評価を免れたい」という目標のことである。いわば、「学習目標を持つ」タイプは、自分の能力向上や成長を求め、「業績目標を持つ」タイプは自分の能力の評価にこだわるといえる。

 例えば、新たな部署に配属された場合、「学習目標を持つ」タイプは、その部署で「必要な知識やスキルを獲得して能力を高めたい」と思い、あらゆることに積極的にチャレンジして学ぼうとする。「能力を高めたい」「成長したい」という思いが強ければ、新たな仕事でも慣れない局面でも、「これも勉強だ」「成長するチャンスだ」と思って積極的にチャレンジする。

 それに対して、「業績目標を持つ」タイプは、その部署で「能力を評価されたい」「デキない人物と見られたくない」と思うため、できそうなことには積極的でも、上手くできないかもしれないことには躊躇しがちになる。「人から有能と見られたい」「無能とみなされたくない」といった思いが強いため、新たな仕事や慣れない局面では、「何とか上手くやらなければ」「みっともない姿をさらすわけにはいかない」といった自己防衛的なプライドを捨てられないまま守りの姿勢に入ってしまい、チャレンジをためらってしまう。