観点③バリュエーションをつけて投資を行う:
表面上の数字ではなく、事業の将来性を見極めろ

 最後に、第三の観点であるバリュエーションについて説明します。通常、大企業が行う投資の場面では、大きく赤字を出している事業に対して例えば数十億円のバリュエーションを付けて投資を行うということが大きなリスクであるととらえられることが多いかもしれません。その一方で、ベンチャー投資の場面では、成長(グロース)に価値を見出すことに重きを置きます。その事業の採算性、特にユニットエコノミクス(顧客、または事業ひとつあたりの採算性)が成立しているかどうかという点を注意深く観察し、表面上は赤字事業であっても継続して大きな投資を行うことで、市場を一気に獲得していくという考え方が主流です。一例として、コンシューマー向け事業において、顧客獲得のためのマーケティング費用を意図的に大きく投下することで、競合優位性を確立するというケースが挙げられます。

 また、キャピタルゲインを目指す投資の場合には、「マルチプル」の概念をしっかりと持つことも重要です。マルチプルとは、企業の成長性やリスクを始めとする諸要因を同業他社との比較に基づいて投資家の評価を表す指標のことです。企業価値を推計するマルチプル法では、一定の財務指標と企業価値の関係性(倍率=マルチプル)に基づいて相対価値を求めます。現在の状態をよく見極め、将来の予測をできる限り合理的に行うことで、赤字事業であっても数十億円のバリュエーションが正当化されることは少なくありません。またその後事業が拡大していくにつれ、同じようにマルチプルの考え方でより高いバリュエーションを達成することによりキャピタルゲインを得るというシナリオを描くことも可能となります。

 上述した、「ポートフォリオ」、「投資ステージ」、「バリュエーション」という3つの観点をうまく取り込み、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として成功している事業会社が世界ではいくつも出てきています。インテル、グーグルなどを筆頭に、世界中で積極的にベンチャー投資活動を行っている企業は枚挙に暇がありません。さらに最近では、テンセントやアリババなどの中国企業の新規事業領域への大きな投資が注目を浴びています。一方で、日本の大企業に関しては、ソフトバンクなどの一部を除き、まだベンチャー投資に対して慎重な姿勢を崩さない企業が多いと思います。