将来起こることをあらかじめ知って幸福になれるか

 医療の世界でも同じようなことが起きています。

 遺伝子のパターンを詳細に分析できるようになり、乳がんになりやすい遺伝子、アルツハイマーになりやすい遺伝子、統合失調症になりやすい遺伝子など、かなり正確に診断できるようになりました。

 アメリカでは、パーキンソン病を発症する遺伝子について、一般の医療で診断することが始まっています。有名なハリウッドスターのなかにも、診断の結果その遺伝子を持っていることが判明した人がいると聞いています。ただその遺伝子をもっているからと言って、100パーセント発症するというものではなく、またいつ発症するかもわからないのです。

 これも地震の確率と似ています。今日、明日に発症するというわけではなく「これから○年以内に○パーセントの確率で発症する」という話です。最先端の医療技術だからといってうっかり調べてしまうと、将来の自分に待ち受ける過酷な現実を知ってしまうことになります。

 遺伝子を調べることで予防や発症を遅らせることにつながるのであれば、これは大変有意義なことになります。しかし、予防する方法が見いだせていないのであれば、告知するだけで終わってしまいます。

 自分の将来に、やっかいな問題が起こることを知ると人はどういう反応を示すでしょうか。知って落ち込む人もいるでしょうし、生きる気力を失って発症する前に死んだほうがましだと考える人も出てくるかもしれません。現実をそのまま受け入れることは、この言葉通り実践することはとても難しいことです。