縮小均衡、ジリ貧が継続する「やせ我慢の経済」――。閉塞感漂う今の日本経済を表す言葉として、これほど相応しいものはないかもしれない。そして、最近の日本文化を表す“内向き志向”や“草食系男子”といった言葉、さらに留学が減少している状況などからも、現状を受け入れ、現状に順応する日本の姿勢が見える。しかし、一旦世界に目を向ければ、当たり前のように新興国が国力を伸ばし、グローバル市場におけるシェアを拡大している。「やせ我慢の経済」に甘んじる、つまり、現状を維持する姿勢では、現状さえ維持できないことは明白だ。
私が審議会委員を務めている経済産業省の産業構造審議会新産業構造部会では、「やせ我慢の経済」からの脱却について各委員が活発な議論を展開している。そこで今回は、委員会での議論を土台に、産業の創造に必要な仕組みを学ぶこと、その人材を育てることを考えてみたいと思う。
「やせ我慢の経済」からの脱却には
“成長”しか道はない
現在、我が国の公債残高(国と地方の借金総額)は増加の一途を辿っており、平成23年度末には税収の約16年分に相当する約667兆円に達すると言われている。さらに債務残高は、経済危機に陥っているイタリアの対GDP比129.0%を上回る212.7%にまで膨れ上がっている(OCED”Economic Outlool 89”、2011年6月)。それにもかかわらず日本国債の信用度が相対的に高いのは、1400兆円とも1500兆円ともいわれる日本人の個人金融資産が、「国と地方の借金」の総額を上回っているからだ。
しかし、これからさらに高齢化が進む中で高齢者による預貯金の取り崩しが進み、日本の「家計貯蓄率」は急落する見込みで、2010年代後半以降にも「国と地方の借金額」が個人金融資産を上回る可能性が高い。経常収支が赤字になれば、長期金利の上昇を招き、国債価格も急落。日本経済・財政の危機が現実になりかねない。
この危機を顕在化させないためには、まず、現状の問題点を整理し、早急に打つベき施策、また、中長期に打つべき施策を考えなくてはならない。
まず、現在の日本が抱えている致命的な問題は、少子化である。「失われた10年」が「失われた20年」となると、この長期に渡る日本経済の低迷をどうしても同じように議論しがちだが、1990年代と2000年代では、不況を引き起こした要因は異なっている。1990年代の低成長の主因は、バランスシート問題である。実態のない土地や株式への過剰投資によるいわゆるバブル経済の崩壊で、金融機関は大きな債務を抱え、企業や家計の支出が縮小し、成長分野への投資も抑制された。このバランスシートの調整が進むのは2000年代初頭だった。
同じ頃、民間企業も自助努力により収益性が改善し始めた。しかし、ここで、もう1つの構造的問題が顕在化する。1990年代後半から減少し始めた生産年齢人口は減少が加速するのである。つまり、2000年代後半の低成長の原因は、生産年齢人口の減少にある。