事業の目的とは何か。経済学者や投資家は「金儲け」にほかならないと主張し、大半の経営者たちがこの論理に従ってきた。利益の極大化、株主価値経営、四半期主義、「企業は株主のもの」を前提としたガバナンスなどは、その典型である。

しかし、社会目的と経済価値を両立させ、長期志向の経営を実践する「グレート・カンパニー」は、異なる論理、すなわち「制度の論理」(institutional logic)で行動している。ピーター F. ドラッカーが訴えたように、経済機関というより社会機関として自社を位置づけ、社会に貢献することを事業の目的とし、外部不経済を内部化して、株主以外のステークホルダーからも称賛される行動に努めている。

本稿では、ペプシコ、ノバルティス、サンタンデール、新韓銀行、P&G、IBMなどの事例を紹介しながら、グレート・カンパニーに共通する6つの要件、すなわち「共通の目的」「長期的視点」「感情的な絆」「公的組織との連携」「イノベーション」「自己組織化」を解説し、持続可能性を追求する企業は制度の論理に従って思考・行動しなければならないと訴える。

グレート・カンパニーに学ぶ時

 グレート・カンパニーと呼ばれる企業が、事業をどのように運営し、いまの世のなかにおける自身の役割をどのように認識しているのか、いい加減、事業に関する常識や理論に反映させる時期である。

ロザベス・モス・カンター
Rosabeth Moss Kanter

ハーバード・ビジネス・スクールのアーネスト L. アーバックル記念講座教授。戦略、イノベーション、変革リーダーシップが専門。また、ハーバード大学のアドバンスト・リーダーシップ・イニシアティブの委員長兼ディレクターを務める。最近の著作にSuperCorp: How Vanguard Companies Create Innovation.Profits, Growth, and Social Good, Crown, 2009.がある。

 これまで経済学者や投資家は、事業の目的は金儲けにほかならないと主張してきた。そう、儲かれば儲かるほどよいと。アメリカの資本主義システムの根底には、この都合のよい狭量な考え方が横たわっており、大半の企業を型にはめている。すなわち、短期利益を最大化することであり、株主に利益をもたらすことである。また、その意思決定は金融用語で語られる。

 「都合のよい」と申し上げたのは、この偏狭な理屈のせいで、企業は莫大な資源を自由に使っており、よくも悪しくも世界に影響を及ぼしているという事実、また企業を支えている社員やパートナー、消費者の生活は企業の戦略に左右されるという事実を忘れてしまうからである。そして何より、伝統的な事業観では、グレート・カンパニーの成功法則を理解できない。

 このような企業は、事業は社会に不可欠な要素であり、家族、政府、宗教と同じく、工業時代の幕開け以来、社会を支える柱の1つであったと認識している。

 もちろん、グレート・カンパニーも金儲けをしているが、その方法を選ぶに当たっては、長きにわたって存在しうる組織の構築に思いをはせる。そのために、人を育て、社会を築く必要性を自覚したうえで、未来に投資する。