「最速PDCA」を回す「七の法則」とは?
まず注力したのは、チーム内で行う会議です。
ここで最も効果的だったのは、「意思決定に必要な条件は何か?」をメンバー間で共有することです。会社で意思決定を行うためには、「利益を生むか?」「実現可能か?」「企業理念と合致するか?」など、いくつかのクリアしなければならない条件があります。逆に言えば、この条件をクリアしていれば、即座にGOサインを出すことができるわけです。
そこで、私は、すべてのメンバーに機会あるごとに「意思決定に必要な条件」を何度も伝えて、会議に何かを提案するときには、必ずそれらの条件をクリアしていることを、明確な根拠(データ)とともに示すことを徹底してもらいました。提案内容を考える段階で、品質をできるだけ高めてもらうようにしたのです。
そして、その内容を「1枚の提案サマリー」にまとめ、会議の場で手短かにプレゼンできるように指導。つまり、メンバーの「社内プレゼン力」の向上を図ったのです(そのノウハウをまとめたのが私の処女作『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)です)。
一方、会議のやり方も抜本的に変えました。
定例会議に1時間を取ることが慣例化していましたが、これを基本的に30分に短縮。提案書の事前提出を徹底させ(意思決定に必要な条件を満たしていないものは、この時点で差し戻し)、会議では3分以内でのプレゼンを義務づけました。
そのうえで、意思決定というゴールに向けてまっしぐらに議論を深めていきます。ここでも、プレゼンとディスカッションを合わせて15分以内という制約を設定。限られた時間であっても、メンバー全員が「意思決定に必要な条件」を共有していれば、議論がムダに拡散することもなく、的を射たものになります。むしろ、時間を限るからこそ、メンバーは集中力を切らさずに質の高い議論ができるのです。
そして、議論を通じて提案内容を多角的に検証することでブラッシュアップ。最終的には、マネジャーである私が採否を決するわけですが、ここで私が参考にしたのが孫正義社長がつくった経営指針「孫の二乗の兵法」です。ここにある「七」という項では、「勝率5割で戦いを仕掛けるのは愚かだが、勝率9割まで待つと手遅れになる。だから、7割の勝率で勝負をする」ということが書かれているのですが、これは、マネジャーの意思決定にも妥当する考え方なのです。
90点の意思決定をめざして慎重になりすぎるとスピードが落ちる。とはいえ、勝算の低い意思決定を闇雲に繰り返しても、メンバーは疲弊するだけで、チームの生産性は上がりません。だから、「70点の意思決定」をスピーディに下していく。私はこれを「七の法則」として、常に念頭に置いて会議に臨んでいました。この法則に則って最速で意思決定を下し、チームでPDCAを回していくことによって、プロジェクトの成功までもっていくわけです。
これができるようになると、確実にメンバーのモチベーションは高まっていきます。自分で考えた提案を実施して成功にたどり着くのだから当然のことです。成功体験こそが、モチベーションを最大化する要因なのです。もちろん、会議でメンバーのモチベーションを高めるような声掛け(コミュニケーション)をすることも大事なことではありますが、本質的に重要なのは、そこではない。「70点の意思決定」を最速で下していくことによって、メンバーに成功体験をさせることこそが重要なのです。
こうして、「会議の品質」を向上させることで、チームの意思決定回数が倍増。それに比例して生産性もどんどん高まっていきました。そして、それに関心をもった社内のマネジャーから、社内プレゼンのやり方や会議術を教えてほしいと頼まれることも増えていったのです。