城島さんは、当時ルーキーだった僕に「遠慮せずに、どんどんサインに首を振れ!」と言ってくれた。

「首を振ることで、お前の配球に対する考え方が分かる。だからオレに気を遣う必要なんてない。それに、本当に大事な場面ではオレは頑としてサインを変えないから……そのときはオレを信じて投げてきてくれ」

 包み込むような気遣いは、まだプロ野球の舞台での経験が少ない僕にとっては、本当にありがたかった。ルーキー時代の僕がピッチャーとして成長できたのは、最初に城島さんとバッテリーを組めたことが大きいと思う。そして、その城島さんから教わったことを、今度は僕が若手キャッチャーに伝えなければならない、とも感じている。

「キャッチャーとの相性」という考え方はしたくない

 技術的な話で言えば、僕がキャッチャーに求めるのは、フレーミングとブロッキングの上手さだ。フレーミングとは簡単に言えば、キャッチングテクニックのこと。その技術に優れているキャッチャーは、ストライクゾーンギリギリの投球であっても、キャッチングの動作をうまくコントロールして、審判に「ストライク!」とコールさせることができる。逆に、キャッチした瞬間にミットが流れてしまったりすると、せっかくのストライク球でも「ボール!」と判定されかねない。うまくフレーミングしてもらえると、ピッチャーとしても投げていて気分がいい。

 また、身体を使ってボールを受け止めてくれるキャッチャーが相手だと、投球時の安心感がかなり違ってくる。この技術がブロッキングである。「このキャッチャーなら僕の球を後ろに逸らしたりせず、ブロックしてくれるはずだ」という信頼があると、思い切ったピッチングがしやすくなる。

 こういう話をすると、必ず出てくるのが「ピッチャーとキャッチャーとの相性」というテーマだ。もちろん、配球に関する考え方など、バッテリー間に多少の相性の良し悪しがあるのは事実だ。

 しかし、その差はあまり本質的なものではないと思う。さきほど書いたような「自分のボールや性格を知ってもらう努力」や「配球に関する丁寧な打ち合わせ」「実戦のなかでバッテリーを組む経験」などをしっかり繰り返していけば、相性の良し悪しは解消していくものだと考えているからだ。

 ときどき「和田さんは○○捕手との相性がバツグンですね!」などと言っていただくことがある。褒めていただけるのは本当に光栄だが、その一方で内心、忸怩たる思いがないわけではない。要するに、「このキャッチャーとは組みやすい」とか「この人とはやりづらい」といった差があるうちは、キャッチャーとのコミュニケーションがまだまだ十分ではないということだからだ。

 どんなキャッチャーと組んでも、しっかりと実力を発揮できるのが本当のプロだと思うし、少なくとも僕自身はそのようなピッチャーとして評価されたい。これが僕の本心である。