東芝は上場廃止の危機は脱したが、経営が正常な状態に戻ったとはいえない。米国の原発事業で生じた巨額損失の穴埋めのため、収益源の半導体子会社の売却を決めた。収益が見込める事業はほかになく、今年度の営業利益の見通しは「0円」。ぎりぎり赤字にならない水準だ。

 それでも経営陣は賃上げを決断し、定期昇給分も含めた賃上げ率を「2.5%程度」と明らかにした。政権の要請には届いていないが、近づける努力はしたことを示したかったようだ。

賃上げの主導権
労組から政府へ

「官製春闘、ここに極まれり」の状況だが、労組側の動きは鈍いままだ。

「生活、雇用、将来の三つの不安の払拭には、賃金水準の改善が不可欠。月例賃金にこだわって闘争にとりくむ」(電機メーカーの労組でつくる電機連合の野中孝泰中央執行委員長)

 今春闘で、労組の幹部たちは、ことあるごとにそう繰り返してきた。

 一時金(ボーナス)や手当が増えても、働き手の不安は消えない。業績や景気が悪くなれば、すぐに削られるためだ。だからこそ労組は、ベアを軸とした賃上げにこだわって交渉してきたはずだ。

 しかし賃上げの回答に、実は手当が含まれていて、純粋な賃金アップ分がいくらなのかはっきりしない。そんな状態で、働き手の不安は拭えるのだろうか。賃上げと引き換えに雇用が奪われるのだとしたら、なおさらだ。

 自動車メーカーの労組でつくる自動車総連の高倉明会長は記者会見で、トヨタの回答を「共闘という意味では問題を残した」と述べ、連合の神津里季生会長も、その9日後の会見で「賃金データはきちっと(把握)しないといけない」と、懸念を表明はした。

 だが、それでどんな対抗策をとろうとしているのかは、まったく見えてこない。

 経営側から具体的な賃上げ額を引き出せないほど、労組の力が弱まっているにもかかわらず、危機意識は感じられず、どこか人ごとのようだ。