【いま女子大に行くメリットは?国公立大学の評価って?】『大学図鑑!2019』は、シリーズ第一作発売から20年目を迎えました。これを記念し、監修のオバタカズユキさんに、掲載大学の変遷や選び方、取材方法といった制作の裏側、20年間で変貌を遂げた大学などについて語っていただきます。この20年間で一番大きく変化したのが法政大学!という話題を中心にお送りした前編に続き、この後編ではMARCHの中で『大学図鑑!』の評価が厳しすぎるという声が寄せられる中央大学について、また女子大や国公立大学の未来などについて聞いていきます。
――MARCHのなかで、中央はどうですか?『大学図鑑!』の評価が厳しすぎる、不当だ、という声もときどきいただきますが。
やはり昔の世代とのイメージのギャップがあるのは、1978年、いち早く多摩の山の上に移転したという立地の影響が大きいと思いますよね。「山の上で繰り広げられる自己完結した日々」だなんて見出しが最新版にもありますけど、70年代に青春を送った方や中大好きな方はカチンとくるかもしれません。
あの大学は基本的に、昔と変わらず質実剛健ではあると思うんですよ。けれど、学生から見たときの元気さ、明るさでは後塵を拝していると思います。都心の大学生が一都三県の人ばかりになっていく中で、今も中央に地方出身の学生がそこそこ多いのは、郊外にあって大学近くでも家賃が比較的安いとか、資格取得に強い、といった利点からでしょう。
2022年までに看板の法学部を後楽園キャンパスに移す予定がありますけれど、他の学部も都心回帰するのは物理的に難しい。「自己完結」と言っても、中大生の基本は本にある通り、「のどかなキャンパスで無難な日々をまじめに過ごす」であり、それはそれで自分の性格にちょうどいいと感じている学生だってたくさんいます。
――女子大に関しては今「関東女子大グループ」として10校掲載していますが、昔はもっと多かったですよね。女子大に対する見方はどのように変わりましたか。
異論もあるとは思いますが、すごく単刀直入に言えば、お茶の水女子と津田塾以外、昔は基本的に企業の事務職として就職して結婚退社するための「花嫁修業の場」という女子大がほとんどだったと思います。女子大側が何と言おうと、現実がそうだった。1986年に雇用機会均等法が施行(85年制定)されましたけど、まだまだ常勤で働く女性は「キャリアウーマン」とわざわざ名づけられるほど少数派でした。90年代に入ってからも、80年代の余波が強くて大きな変化はなかったと思います。
明らかに女性のキャリア観が変わったり、「良妻賢母?なにそれ?」という雰囲気が出たりしてきたのは、2000年代に入ってからではないでしょうか。人気指数といえる偏差値も下がってきましたしね。東京女子あたりは80年代後半ぐらいまでは、早慶の下位学部より偏差値が高かったけど、今や随分下にいます。
あとは、各大学の特徴も薄まってきましたよね。楚々としてるとか、チャキチャキしてるとか、同じ良妻賢母養成校だとしても、昔はもっとカラーの違いがありました。それが今や学生さんを見ても、その違いがよくわからない。大妻・共立・実践あたりもそうだし、聖心と白百合も昔は一目でどっちか分かったけど、最近は間違えます。
そういう流れもあって、「大学図鑑!」でもいったんは「女子大グループ」を廃止していました。ただ、やはり女子大の情報も知りたいという根強いニーズがあって復活させたという経緯があります。以前の3分の1ほどの掲載校数ですけれど。
――そんな今の時代に、あえて女子大に行くという選択にどんな価値が見いだせると考えていますか。
難しい質問です。10年前だったら、少人数授業が多く、教員と学生の距離が近く、面倒見のいい教育を受けられるというのが一つの利点だったと思います。でも、少人数教育は大規模総合大学も、あちこちの学部で始めちゃっていますからね。
強いていえば、最近できた教養系とか国際系の学部はたいてい少人数教育なんですが、人件費がかかるから学費が高いんですよ。そこらに比べたら、女子大はまだ出費を抑えられるということかなあ。
まあ、これも個々別々の問題なので一般論化はできないんですが、異性がいない空間で落ち着いて思考する時期が必要な人はある程度いるんでしょうね。同性異性関係なく揉まれて育ってナンボと言いたくなるけど、人によってはそういうニーズもたぶんある。
あと、これは勝手にしてくださいという話だと思いますが、東大や早慶などエリート大の中には、いまだに他大生の入部は特定の女子大の学生に限る、っていうインカレサークルがあるんです。良妻賢母っていうか、大学時代から玉の輿に乗るための練習場みたいなところがある。そういう場所を好むような価値観の持ち主の相手と暮らしていきたい、っていう望みがあるなら、一部の女子大の子たちは今でもブランドとしてモテるようですよ。
――「不景気に強い国公立大人気」という傾向は、今も続いているのでしょうか。
90年前後は私大人気に押されて、あの国立大学が日東駒専に偏差値で抜かれた、とマスコミに騒がれるなどしていましたが、その後の長い不景気で持ち直してきました。ただ、大学改革などの面では私大と比べて10~20年の遅れはあると思います。
2010年代に入ってからは、国公立の中の二極化が進んでいます。国の大学への運営費交付金が減らされる中、特に理系は科研費をいくらとれるかが研究室経営に大きく影響します。ただ、科研費がきちんと取れているのは、旧帝大系+東工といったところで、地方の国公立大の理系学部は補助金申請の書類作成作業ばかりがやたらと増え、研究の時間と予算が減り、かなり困っています。
ただ文系でいえば、現役・地元志向が強まるなか、実力的に早慶に行けるものの地元の国公立大学を選ぶ学生も増えています。企業の採用担当者がこういう変化に注目し、首都圏大出身の競争率の高い学生の採用はもちろん狙うけれども、同時に地方の国公立へ優秀な学生を探しに行くという採用活動をし始めています。
今後、ますます少子化が進んでいくなかで、大学の再編もいよいよ増えていくかもしれません。一時、群馬と埼玉が合併して「群玉大学」ができるという噂があったように、そこここの国公立大学で合併の話が浮かんでは消えてきましたが、今度こそ実現していくかもしれません。私大も経営的やばいところがいっぱいあり、公立化したり、公立に吸収されたりといった話が増えるでしょう。母校がなくなるのはさみしさもありますが、現役大学生のセーフティネットにはなりますよね。