地元客にも根強いファン

 だが、「大事なのは地元客、観光地化には反対」といった声も根強くあり、無視することはできない。商店によっては「インバウンド」とは無関係の店もあるだろう。また、地元客の立場に立てば、ここ数年でガラリと様変わりした現状に、嫌悪すら覚えても不思議ではない。

 市内在住の榎真理子さん(45歳)は、祖父母の代からこの市場を利用してきた“なじみの地元客”のひとりである。その榎さんが今の錦市場についてこう語っている。

「混雑の中の食べ歩きは正直迷惑。ソースが服についたり、串が刺さったりでもしたらかなわん。昔は公共の場で食べ歩きしたら、家族に叱られたものだったけど」

 だが、榎さんは、今なお片道30分かけて錦市場に通い続けている。それは「昔ながらの“錦らしさ”が残っているから」だという。

「外国人客とは無縁の鶏肉屋さんや果物屋さん、花屋さんが今なお暖簾を守っているのは、地元客に支持されている証拠です。『田中』『三木』の名店で知られるだし巻きたまごは祖母の代から続く買い物です。『有次』の包丁は世代を超えて使える優れもの、数え上げればキリがないほどいいものが錦にはある、間違いなく私にとっての“台所”です」

 時代の変遷とともに客層が変わり、その目的や利用のされ方、あるいは売り方が変わる錦市場商店街。注目したいのは、地元客であろうと外国人客であろうと、買い手にとっての「錦らしさ」は色あせていないということだ。「観光立国」を目指す日本の時代の変わり目において、活気に満ちた錦市場は見るべき事例の一つではないだろうか。

(ジャーナリスト 姫田小夏)