他人と自分の視点は同じではない。
違っていていい!

 カウンセリングの過程で、和也さんの大学時代からを振り返ってみた。勉強もスポーツも真面目に取り組む努力家で、現役で難関大学に合格した。体育会系の同好会に属し、人付き合いも良かったこともあって、グループ内ではリーダー的存在だった。そして、就職活動も順調に進み、希望する業界に決まった。

 そんな和也さんにとって、これまで順調だったことがかえってマイナスになった。挫折知らずで歩んできたからこそ、社会人になって下っ端扱いされたり、周りに見下される毎日が大きな苦痛でストレスになったのだ。

 和也さんの上司や先輩たちが、彼のことをどう見ていたのかはわからない。恐らく、彼を見下すつもりなどなかったのだと思うし、仮に見下していたとしても、他人の考えは変えられない。しかし、自分は変えられる。変えられるのは自分自身しかない。

 和也さんには、そこを理解してもらおうと、私はカウンセリングで幾度となく、ものの見方や考え方の話をした。

 例えば、テーブルの上に缶コーヒーが置いてある時、ラベルのデザインに注目する人もいれば、「このコーヒーは美味しいのだろうか?」と考える人もいる。「缶コーヒーがある」という1つの事象をとっても、見方・考え方は十人十色なのだ。言葉も同じである。職場で上司からこう言われる。

「おまえ、これやっておいて」

 この一言をどう捉えるだろうか。和也さんは「軽蔑の表現」と捉えたが、日常的な指示、当たり障りない言葉と捉える人もいるだろう。そのような話を繰り返していくうちに、彼は少しずつ自分に自信を取り戻していった。
 
 最後のカウンセリングの時、彼は半年前とは見違えるほど元気になっていた。「仕事に戻ることはもちろん、上司・先輩が待つ職場に戻ることすらも楽しみだ」と彼は言った。

 新年度うつであれ、うつ病であれ、根底にあるのは、自己否定であり、無力感である。つまり、自分と周囲との認知の歪みを直すことで、自信を取り戻し、自分は誰かの役に立てるという気持ちになることが、うつ病克服のカギとなる。

 他人の目を気にしすぎていた和也さんは、人それぞれに見方・考え方があることを自覚し、自分の存在を認めることができた。その後、無事に復職を果たし、今も同じ職場で元気に活躍している。

小さな変化を
見過ごすな!

 部下や後輩を持つ人に知ってほしいのは、環境の変化が大きいほど、精神的に追い詰められてしまう人も現れやすくなるということだ。特に気にかけてほしい人がいる。それは生真面目である、責任感が強い、几帳面である、仕事熱心である、他人に気を配る、人情深い、気が弱いといった性格の人たちである。