職務ベース、世界共通制度で運用
米国系グローバル企業A社のケース

 A社は、多くの企業がベンチマークとしており、目標にしている企業も少なくない米国系グローバル企業である。30万人以上の従業員をグローバルに擁し、製造業をその中核事業として、全世界で多様な事業を展開している。

 A社における人材調達は中途採用が中心である。採用総数の8~9割を占めている。同社における採用の意味付けは、3年単位の事業計画に基づく戦略に即した人材を採用することであり、そのための選択肢は、即座に戦略貢献できる人材に限定される。

「即戦力になる専門性と、会社に合うか否かの価値観で採用の合否を決める」

 このように採用基準は明確で、特に後者の価値観はValueと呼ばれ、これは全世界共通での指標となっている。少ないながら新卒も同様の手法で行われているが、部門別・職種別採用なので一括採用ではない。新卒採用から職務を特定した採用がされており、当然、職能資格制度はない。

 人材育成は、将来への期待を認められたものだけ、つまりハイパフォーマーだけに行われる。

「投資に値するかどうか選別、お金や人の資源を割いて育てている。ジョブ・ローテーションの考えは無い」(A社・人事マネジャー)

 日本企業の能力開発の定石とも言えるジョブ・ローテーションも、そもそもその概念がない。

 異動は本人の希望においてのみ機会が生まれ、それまでの業績が影響力を持つ。異動のための専用サイトがあり、そこでは誰もが、グローバルなポジションの欠員に「公募」の形で応募することができる。ゆるやかな社内転職である。

「ジョブ・セキュリティが無いに近いので、その分、常にパフォーマンスを出さないといけない。その中で一番パフォーマンスを出せるポジション、創りたいキャリアを自己責任で作ってくださいというのが大前提だ」(同)

 異動、ポジション獲得、キャリア形成において重要なカギとなる業績の評価は、世界共通の単純な指標構造で行われる。

「評価は3段階。世界中で一律に運用するために細かいことはやっていない。それと3段階であれば、リーダーによる個人差が出にくい」(同)

 世界160ヵ国で30万人もの従業員を共通の仕組みで評価していくために、クリアーなシステムで、かつ最大限の可視化がなされている。評価結果は当然本人にフィードバックされ、客観的に明瞭に説明できることがマネジャーに求められ、個人差、地域差を排除している。

 A社は,典型的な職務ベースの米系企業と言える。戦略の実現に必要な人材を、職務というカテゴリーで集め、行動規範を徹底的に共有し、シンプルなゴールを提示することで、望ましい従業員のアクションと成果を引き出す。一方、A社の従業員は、採用の時点でジョブ(領域)を選択し、社内のキャリアもそのジョブのスペシャリストとして積んでいくことになり、能力を高めていった者が昇進、昇格していく。能力開発は原則自己責任で、定期的な評価や、社内公募の可否で、プロモートされたかどうかで、結果を自ら確認することができる。