首相辞任劇の余波が広がっている。福田康夫首相“肝煎り”の政策といえば消費者庁創設が有名だが、じつはもう1つのプロジェクトが、首相の強力な指令の下で加速度的に進行していた。

 日本が世界最先端のIT国家となることを標榜した「電子政府構想」の実現である。電子政府を推進する目的は2つある。

 1つ目は、行政コストのムダを排除することだ。霞が関の中央官庁(一府一二省庁)ごとに、旅費や物品調達、諸手当等の規程がバラバラに運用されているため、ITを活用して規程の一本化を図る。

 2つ目は、国民の利便性を高めることだ。納税手続きや住民票申請等の行政手続きの電子化を進め、1ヵ所で複数の行政手続きができるワンストップサービスを実現する。
 
 用紙による申請では、たとえば転居する際に、転出先自治体、転入先自治体、運転免許証の住所変更のために警察署など、複数の行政機関に提出しなければならない。

 この4月、電子政府推進のために毎年重点計画を定めるIT戦略本部会合の席上、福田首相は、「そうとうなスピード感を持って改革工程表を見直していただきたい」と、珍しく声を荒らげて檄を飛ばし、電子政府推進の改革工程は5年から2年へと短縮された。

 首相が成果を急いだのは、計画どおり進めば、前述した行政手続きの電子化の推進だけでも、官民合わせて1000億円ものコスト削減効果があるからだ。

 とりわけ、行政のムダを省くには強力な武器となりうる。たとえば現在、霞が関の各省庁の旅費規程の統一化に向けて議論がなされているのだが、「出張範囲や日当の規程が官庁ごとに異なり、運用ルールが1200種類にも及ぶため、それを厳格にチェックする経理担当者だけで200人はいる」(霞が関関係者)という実態が明らかになりつつある。

 IT戦略本部会合では、精密大手キヤノンの年間15万件の出張精算を1人の経理担当者でさばいている事例が示された。諸規程の統一化を図り、新システムを導入できれば、そうとうなコスト削減になるはずだ。

 だが、わが身を削るプロジェクトの推進に、霞が関が自発的に取り組むはずがない。だから、上位組織としてIT戦略本部を設置し、福田首相は自ら号令をかけた。

 そのお目付け役が不在であれば、頓挫しかねない。ここにもまた、無責任ゆえの綻びが生じている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)